2000年 イラン 80分
監督:バフマン・ゴバディ
少数民族の過酷な生き様。 ★★★☆
このポスターを見てほしい。
なんとも切なくなるような少女の涙。そして雪深い風景が小さく描かれている。
これは安易な感想など意味を持たないような、そんな重みを持った作品であった。
イランとイラクの国境地帯に住むクルド人は、国家を持たない少数民族とのこと。
そんな村で苛酷な生活を送る少女アーマネの独白で物語が語られる。
彼女は5人兄弟なのだが、母親は最後の出産時に死亡、父親も国境に敷設された地雷を踏んで死んでしまう。
子どもたちだけが残されたのだが、兄のマティは生まれながらの難病に冒されていて、手術を受けないといけない状態なのだ。
12歳になる次兄のアヨブが働いて家族を支えようとする。
このアヨブが健気。
一人では何もできないマティを村の医者へ連れて行き、薬を飲ませ、自分は学校を辞めて働きながらもアーマネには勉強をしろと言ってノートを買ってくれる。
一人で頑張っている。
そんな兄のことを、画面にかぶさるようにアーマネが語っている。
この山沿いの村は密輸業で生計を立てている。
アヨブも生活費、それにマティの手術代を稼ぐために密輸のキャラバンに加わる。
この密輸は、大きく重いタイヤをラバの背に乗せて国境の山を越えて密輸するのだ。
あまりの寒さで凍えてしまうラバを歩かせるために、水に酒を混ぜて飲ませてもいる(それがこの映画のタイトルの由来)。
道中には地雷が埋められており、武装した国境警備隊もいる。
それでも生活のために、雪山を越えてこんな苛酷な労働をしている人々がいる。しかも、子どものアヨブまで。
今日のこの苦しさを耐えたからといって、明日が楽になるという希望もない。
明日は今日よりももっと辛くなるかもしれない・・・。
この監督の初作品ということだが、彼はあのイランのアッバス・キアロスタミの助監督をしていたとのこと。
監督本人もクルド人である。
(以下、ネタバレか?)
最後近く、山越えをしようとしていたアヨブたちのキャラバンは国境警備隊に見つかり追われる。
大人たちは逃げてしまい、アヨブとタイヤを捨てたラバだけが雪山に取り残される。
意を決して、鉄条網を越えて隣国へ入っていくアヨブの姿で映画は終わる。
あれからアヨブはどうなったのだろう。
冒頭から、兄アヨブの事をアーマネは過去形で語っていたのだった・・・。