2011年 アメリカ
監督:スティーブン・ダルドリー
出演:トーマス・ホーン、 サンドラ・ブロック、 トム・ハンクス
失ったものをさがす少年の心の旅。 ★★★☆
あの9.11アメリカ同時多発テロで父(トム・ハンクス)を失った少年、オスカー(トーマス・ホーン)が主人公。
彼は父喪失の悲しみから立ち直れずに、2人暮らしの母(サンドラ・ブロック)ともぎくしゃくしている。
そんなある日、オスカーは父の遺品の中から、ブラックと書かれたメモと一緒に一本の鍵を見つける。
彼はこの鍵に父との繋がりを感じて、母親に内緒でニューヨークに住むブラックという人物をしらみつぶしに訪ね始める。
このオスカーという少年はどこか精神状態が過敏である。
パニックにならないように、いつもなにか物音を立てていないといけない。
そのために出歩く時はいつもタンバリンを手にする。
それを振って鈴を鳴らしながらでないと、精神が安定した状態で保てないようなのだ。
自分でも、アスペルガー症候群ではないかと検査を受けたことがあると告白している。
そんなオスカーは電話帳に載っているブラックさんの住所を地図上で確かめ、訪ねて歩くルートを考える。
毛糸の帽子にリュックを背負い、手にタンバリンを持ってこっそりと家を抜けだしては、1日に数人ずつブラックさんを訪ねて歩く。
いろいろなブラックさんがいる。
オスカーの話を聞いて同情してくれるブラックさんもいるし、けんもほろろに追い返すブラックさんもいる。
しかし、父の残した鍵に結びつくようなブラックさんはいつまでもあらわれない。
オスカーを心配する母に、オスカーは「死んだのが(パパじゃなくて)ママだったらよかったのに」と言ってしまう。なんて惨い。
すぐそのあとでオスカーは、「本心じゃないよ」というのだが、母親は「本心よ」と呟くようにいうのだ。
息子にそんなことをいわれる母は、辛い。
言ってしまった息子も、辛い。
オスカーは本当にそう思っているのだろう。
そして、そう思ってしまう自分に苛立ってもいるのだろう。
ひたむきに鍵の謎を追い求めるオスカーに答えは見つかるのか。
それは父の死と本当に向き合うことなのだが、オスカーは父の死を受けいることができるようになるのか。
(以下、ネタバレ)
実はオスカーには誰にも言えなかったことがあるのだった。そのことがより一層オスカーを苦しめていた。
それは父からの最後の電話に出なかったこと。
「そこにいるんだろ」と父からの音声電話が途切れたときに、TVではあのツインタワーが崩れ落ちていく映像を映していたのだった。
これは辛いよなあ。立ち直れないぐらいに辛いよなあ。
オスカーは父の残された声を何度も聞き直している。
そして映画の最後近く、オスカーはやっとこのことから解放される。
感動してしまう。
もう一つ、ああ、と思う事柄があった。
オスカーが訪ねる見ず知らずのブラックさんは、みんなオスカーに対して真剣に対応してくれた。
なぜ?
実は母親はオスカーがしていることをみんな知っていたのだった。
オスカーの予定を確かめて、彼が訪ねる予定のブラックさんには、母はあらかじめ会っていたのだ。
母親のどこまでも果てがない愛情があったのだ。感動してしまう。
オスカー役のトーマス・ホーンはオーディションに合格したまったくの素人子役だったとのこと。
実に上手い。感嘆した。
奇妙なタイトルでどんな内容だろうと思っていたのですが、しみじみとした人間ドラマでした。