2015年 アメリカ 124分
監督:ジェイ・ローチ
出演:ブライアン・クランストン、 ダイアン・レイン、 ヘレン・ミレン
赤狩りに翻弄された天才。 ★★★
この映画の主人公、ダルトン・トランボなる人物のことは、映画を観るまでまったく知らなかった。
そりゃそうだ、長い間、名前を偽って活躍していたのだものなあ。
この映画は、彼がそうせざるを得なかった抑圧の時代と、その抑圧から解放されて正当に評価された栄光を描いている。
1940年代から50年代にかけて、アメリカでは赤狩りの風潮が全土を覆っていたようだ。
第二次世界大戦が終わり、米ソの冷戦体制が深刻だったころだ。
ハリウッドでも政治思想が問われ、共産主義傾向のある者は容赦なく迫害されたのだ。
なんて恐ろしい時代があったのだろうか。
(トランボならぬ、これからはじまるトランプ政権時代はどうなる?)
売れっ子脚本家だったトランボはその政治信条を糾弾され、議会侮辱罪で収監もされてしまう。
まさか、自分が本当に刑務所に入れられてしまうなんて!
しかし、トランボはどこか飄々としている。
自分の生き方に横やりが入ろうが、まったく動じない信念を持っているからだろう。
映画はすさまじい時代の様子を、緊張感をもって伝えてくる。
(ジョン・ウェインて、あんな人物だったんだ!)
そして、ブライアン・クラストン演じるトランボの人柄、考え方もよく伝わってくる。
迫害を受ける彼をささえる家族、特に奥さん(ダイアン・レイン)も素晴らしい。
家庭人としてはそれなりに偏屈なトランボの人間性を理解して、その才能を誰よりも信じていたところが素晴らしい。
しかし、このトランボという人物は、よくよく才能に恵まれていたのだなあと思わされる。
自分の名前を出すわけにはいかないものだから友人名義で書いた脚本「ローマの休日」は、アカデミー原案賞を取ってしまう。
そして生活のために、と、B級映画の脚本を安い原稿料で書きまくる。
そのどれもがそれなりの出来だったようだ。
そして、そんな中の1本「黒い牝牛」が、またしてもアカデミー原案賞を取ってしまう。
だから思想的には弾圧されている彼だったが、その才能を見込んでカーク・ダグラスもオットー・プレミンジャーも彼の脚本をほしがったわけだ。
そして出来上がったカーク・ダグラス主演の「スパルタカス」、オットー・プレミンジャー監督の「栄光への脱出」では、脚本はトランボの名前を明らかにしている。
助演でひかっていたのがヘレン・ミレン。
赤狩りに躍起となる評論家を演じているのだが、もう、その嫌味ったらしいことといったら!
さすがに上手い。
実名での仕事を再開したトランボは、その後、「いそしぎ」「ジョニーは戦場へ行った」(監督もしている)、「ダラスの暑い日」「パピヨン」と、傑作映画の脚本を書いている。
やはり並の才能ではなかったのだなあ。
この映画は、時代の迫害にも自分の信念を曲げなかった人物像を描いて、魅せてくれます。
ところで、オードリー・ヘップバーンが最後に出演した映画は「オールウェイズ」だが、なんとこの映画の原作もトランボなのである。
ヘップバーンとも因縁があったのだなあ。