あきりんの映画生活

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「紙の月」 (2014年)

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2014年 日本 126分
監督:吉田大八
出演:宮沢りえ、 小林聡美、 大島優子

平凡な女性の大金横領ドラマ。 ★★★☆

こんな事件が実際にもあって、TVのワイドショーを賑わしたような気もする。
平凡な家庭を持っていて、普通に銀行に勤めていた中年女性が、いつの間にか何千万円にものぼる横領を働いていた。
どうして、あの人がそんなことを?

主人公の梅澤梨花宮沢りえ)は、やっと銀行の外回りの仕事にも慣れてきたところ。
エリートサラリーマンの夫との仲は、どこかしっくりとしなくなってきていたようだ。

そんなある日、店頭販売員に誘われて何気なしに購入してしまった高級化粧品代が、持ち合わせでは足りない。どうする?
ちょっとの間、流用するだけ、と、梨花は、集金してきた銀行のお金を使ってしまう。

銀行員は日常的に他人のお金を扱う。
ともすれば、自分のお金なのか、他人のお金なのか、感覚が麻痺してしまいそうにもなるのだろうか。
それだけに預かったお金の管理、チェック体制はいい加減なものではないだろう。
こうした事件の場合、どうやって管理体制の編み目をくぐり抜けたのだろうか。
門外漢には、そういった内部事情の種明かし的な部分も面白かった。

梨花は、偶然に知り合った若い男に我を忘れてつくしはじめる。
豪華な食事、高級ホテルでの週末密会、一流品の買いあさり・・・。
誰が考えても、いずれは破綻が待ち構えているような、そんな一時の享楽的なことに梨花は我が身を投じていく。

普通の人はなにかの欲望があっても、社会的なことや倫理的なことなどから、たいていの場合は我慢をする。
それが一般の社会人が平凡に生活していくための安全な方法だ。
しかし梨花はそんな自己抑制を外してしまったのだ。
それまでの自己抑制があまりにも強かったために、その反動だったのだろうか。

宮沢りえが実に好い。
上品できれいで、常識人で、しかし、鬱屈したものを内側に押さえ込んでいて。
それが解き放たれていくときの危うさ、を、巧みにあらわしていた。

そして、銀行のお局様的な同僚役の小林聡美も好かった。
彼女が梨花の横領に気づいて、事件が明るみに出るのだが、そんな彼女が梨花に言う。
あんたはリミットを外して自分のやりたいことをやったんでしょ。うらやましい。あたしにはできないことだった。
あたしもリミットを外してまでやりたいことは何なのか考えた。でも、なにもなかった。翌日のことを考えて、徹夜をしたことがなかったことに気がついたぐらい。

これにはやられた。なるほど。

この映画では”善意の寄付行為”というモチーフが底流にある。
幼かった梨花は、東南アジアの貧しい子供への募金を熱心にしていた。
”受けるよりも与える方が幸いである”というカトリック系の学校の教えだったのだ。
では、梨花が若い男に貢いだのは”善意の寄付行為”だった? まさか、ね。

(以下、ネタバレ)

エンディングにちょっと不思議な映像が入る。
梨花は夫が転勤した上海の街を歩いていて、 露天商と出会う。
その露天商は、かって梨花が募金をして援助した貧しい少年の成長した姿だった。
そして梨花はこの露天商からリンゴをもらうのだ。
原作とはかなり違う描き方なのだが、吉田大八監督らしいエンディングだと思った。

この映画で、宮沢りえ日本アカデミー賞最優秀主演女優賞をとっている。
通俗的な題材ですが、それを通して揺れる人の気持ちを確かに捉えています。