あきりんの映画生活

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「マジカル・ガール」 (2014年)

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2014年 スペイン 127分
監督:カルロス・ベルムト
出演:バルバラ・レニー

サスペンス。 ★★★☆

冒頭、授業中にいたずらメモを教師にみつかった少女は、手の中からそのメモを消してみせる。
これがタイトルの「マジカル・ガール」ということのようだ。
しかし、この映画、タイトルから想像されるような、”夢見る少女もの”などではない。
逆に、ブラックな肩すかし感をともなった冷酷サスペンスものだった。

一人の女性をめぐって二人の男性が絡み合う。
人妻バルバラバルバラ・レニー)は精神的に不安定で、ひょんなことから中年男ルイスと肉体関係を持ってしまう。
そのルイスの12歳の娘アリシア白血病で、その娘の夢を叶えてやるために大金が必要となって、ルイスは浮気を夫にばらすぞとバルバラを脅迫し始める。
(ちなみにアリシアの夢は、日本のアニメの主人公のドレスを着て踊ること。そのドレスはプレミア価格で90万円!)

なんて卑劣で心の狭い男なのだ。
しかし、ルイスもいつ命が終わるかしれない娘のために必死ではあったのだ。
それはよく判るのだが、やはりやり方が正しくないよなあ。

と、こう物語を説明すると、普通の浮気をネタにした脅迫が起こる普通のサスペンスのように思えるかもしれない。
しかし、全体の雰囲気はどこか奇妙に捩れているというか、歪んでいるというか、・・・。
真面目なのだか、皮肉一杯なのだか、ところどころでブラックなユーモア感が挟み込まれてくる。

例えば、大金を得ようとしてルイスは宝石店のショー・ウインドーをレンガで割ろうとする。
そのときに睡眠薬を飲み過ぎたバルバラが二階から嘔吐して、吐瀉物がルイスにかかってしまうのだ。
こんな出会い方がサスペンスものであるか? まるでドタバタ喜劇である。
しかし、これが二人が知り合ってしまったきっかけなのだ。

この映画はいろいろな部分を省略して物語を進める。
その省略されたところは観ている者が想像するのだが、そのやり方が巧み。
たとえばバルバラは脅迫された大金を作るために、秘密の性風俗界に出向く。
指定された部屋に入る前にバルバラは、”ブリキ”という合い言葉を言えばプレイはそこで終了する、だからその言葉を忘れてはダメよ、といわれたりする。
どんな事が実際に部屋の中でおこなわれるのか、それはいっさい説明も描写もない。
あの合い言葉の事を教える台詞だけで観客に想像させるわけだ。これはすごい。

この映画は三部構成になっている。
一部でルイスの物語、二部はバルバラの物語。
そして三部が刑務所から出てきた元教師の男ダミアンの物語。

彼はなにかバルバラと因縁があったようで、出所したあとも彼女に再会することを怖れていた。
しかし、ダミアンは自分の部屋の前に体中が傷だらけになって倒れているバルバラに遭遇してしまうのだ。
実はバルバラは、ルイスからさらなる脅迫を受けて、さらに怖ろしい事がおこなわれる秘密の部屋に入っていたのだった(その部屋では、プレイを止める合い言葉もない、と告げられていた。怖ろしい!)。

(以下、ネタバレ)

ここからはバルバラのために復讐の鬼となったダミアンの物語となる。
冷酷非情なノワールである。
愛する女性のために(しかし、ダミアンとバルバラの関係がなんだったのかはいっさい描かれない。これも想像させるだけ)、銃を手にするダミアン。

手の中からメモ用紙を消して見せたマジカル少女のバルバラ
そして魔法使いの女の子に返信することを夢見ていたマジカル少女のアリシア
その二人をそれぞれのやり方で愛したダミアンとルイス。

最後の場面、”マジカル・ティーチャー”には思わず唸ってしまった。

ちょっと異色のサスペンスものです。お勧めです。