あきりんの映画生活

映画鑑賞だけのブログです。★★★★が満点評価ですが、ときに思い入れ加算があります。約2000本の映画について載せていますので、お目当ての作品を検索で探してください。監督名、主演俳優名でも検索できます。

「白い帽子の女」 (2015年)

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2015年 アメリカ 122分
監督:アンジェリーナ・ジョリー・ピット
出演:ブラッド・ピット、 アンジェリーナ・ジョリー、 メラニー・ロラン

夫婦の喪失と再生。 ★★★

アンジェリーナ・ジョリーは最近は監督業に精を出している。そんなアンジーの監督第3作。
しかも当時、離婚の噂がささやかれていたブラッド・ピットとの10年ぶりの共演。
いや、もしかすれば、女優としての彼女の最後の映画かもしれないとまで思ってしまう。

南フランスののどかで美しい避暑地を訪れるアメリカ人の夫婦。
小説家のローランド(ブラッド・ピット)とその妻ヴァネッサ(アンジェリーナ・ジョリー)。
しかしヴァネッサは陰鬱な雰囲気で自分に閉じこもり、そんな彼女に困惑したようなローランドも酒浸りの日々だった。

映画は、古いオープンカーで海岸を走る二人の様子から始まる。
そこにショパンの「24の前奏曲作品28 第4番 ホ短調」の旋律が流れる。
私の好きな旋律で、おお、と思ってしまう。
この曲のジャズの名演は、ジェリー・マリガンの「ナイト・ライツ」というアルバムに収められている。
この映画で歌っていたのは、調べてみると、あのジェーン・バーキンだった。

美しい画面の映画は、とても静かで、重くて暗い。
描かれようとしているのは登場人物の心理であって、捉えられる動作、しぐさは、そんな心理描写のための手段に過ぎない。
だから、アメリカ映画なのだが、全体の雰囲気はとてもフランス映画のように繊細である。
事件のようなものはなにも起こらず、ただ夫婦の心の揺れようが捉えられていく。

しかしこの映画、実際に危機にあった夫婦のブラピとアンジーが演じていて、しかもアンジーが監督をしている、という意識でどうしても観てしまう。
何ごとかに苛立ち、ブラピ、いやローランドがさしのべて助けようとする手をことごとく払いのけようとするアンジー、いやヴァネッサ。
我が儘にふるまうアンジー、いやヴァネッサ。
それをどこまでも寛容に受けいれようとするブラピ、いやローランド。

ヴァネッサはサングラスをいつもガラス面を下に置いてしまう。
それに気付いたローランドは、そのたびにサングラスが傷まないようにガラス面を上に向けて置き直す。
このシーンは何度も映される。
脆く、傷つきやすいガラス面はヴァネッサの心で、ローランドはそれをいつも直して守ってやろうとしている、という風に読み取ることもできる。

ホテルの隣室に新婚旅行中の若い二人が投宿する。
その部屋との間の壁に小さな穴を見つけたヴァネッサは、その穴から若い二人をのぞき見るようになる。
ヴァネッサは何を求めてそのような行為をするのだったか。
やがてローランドもヴァネッサと一緒に覗き見をするようになる。

彼ら二人と一緒の食事に出かけようとするとき、ヴァネッサは入念に化粧をする。
若い隣室の妻(メラニー・ロラン)に美しさでは負けないわよ、といった執念のようなものさえ感じさせるメイクぶりだった。

たしかにアンジェリーナ・ジョリーの臈長けた美しさはすごかった。あらためて見惚れてしまった。
映画を見始めるまでは、年齢からくる衰えはさすがにアンジーといえどあるだろうと思っていた。
しかし、若さとは違う美しさを彼女はまとっていた。
私にとってのこの映画のすべてはその一言に尽きる、と言ったら、映画を撮ったアンジーにかえって失礼か・・・。

美しいが辛い日々を共に送ったヴァネッサとローランドは、それでも微かな微笑を浮かべながらホテルを後にする。
ローランドは「海辺にて」(映画の原題でもある)という小説を書きあげて。

映画は、冒頭に二人がやってきた道を戻っていく場面で終わっていく。
ふたたびバーキンの歌うショパンの旋律が流れる・・・。

この映画、二人のファンでない人の評価はおそらく低いのではないだろうか。
私の評価、アンジーの映画ということで、私の中で無意識に加点されたのはどれぐらいなのだろう?(苦笑)