あきりんの映画生活

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「愚行録」 (2016年)

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2016年 日本 120分
監督:石川慶
出演:妻夫木聡、 満島ひかり

悲劇の連鎖。 ★★★☆

原作は貫井徳郎の同名小説。
一人の週刊誌記者が未解決の一家惨殺事件の真相を追うという筋立て。
しかし、彼自身にも抱えている問題があって・・・。

1年前のその事件というのは、閑静な住宅街での一家殺害事件。
殺されたのは、仲のよい理想の家族のようなサラリーマンの田向浩樹とその妻、一人娘という3人家族。
週刊誌記者の田中(妻夫木聡)は、真相を探ろうともう一度関係者への取材を始める。

田中のいろいろな取材相手が殺された夫のことや、妻のことを、問われるままに少しずつ話していく。
単調な展開に思えるかも知れないが、そんなことはなかった。
被害者たちの過去が語られるにつれて、少しずつその隠されていた人間性も見えてくる。
えっ、本当はそんな奴だったのか。

たとえば夫は、恋人を二股かけて自分にとって得な彼女を選んだりしてもまったく悪びれないような性格。ちょっと、どうよ。
そして妻の方は、ちょっとした美貌を鼻にかけて同級生を辱めたり、彼氏を横取りしたりと、陰湿この上ない過去の持ち主だった。
嫌~な女だよなあ。

こうして調査を進める田中だったが、その合間に妹の光子(満島ひかり)に会いにも出かける。
実は、光子は育児放棄をして我が子に重い障害を負わせてしまった疑いで逮捕・勾留されていたのだ。
田向夫婦の暗い一面を見させられた田中だったが、彼自身も家族の問題を抱えていたわけだ。

事件を究明しようとしている主人公にも、個人的な家庭での悩み事があって、という設定はときおり見かけられる。
主人公の人間性が深みを帯びたものとして描きやすくなるのだろう。
そういえば、先日観た「64ロクヨン」の主人公の刑事もそうだったな。

そんな田中の人間性を見せつけるエピソードが冒頭にある。
満員バスの中で座っていた田中は、老婆に席を譲るように促されしぶしぶ席を立つ。そしてバスを降りようとするときになって田中が足が不自由だったことがわかる。
席を譲るように促した人物が、ああ、そうだったのか、と苦い思いを抱いたことは想像に難くない。
しかし、バスから降りた田中は、バスが見えなくなると勢いよくすたすたと歩きはじめる。
嫌な性格だよなあ。

こうしてこの映画は、人間の持つ嫌な面ばかりを暴いていく。
気分がすっきりすることはない。
しかし、大変に面白いのである。この人間関係は事件にどうつながっていくんだ?

(以下、ネタバレ気味)

田中が調査していた殺人事件と、田中の妹の光子の事件。
平行して描かれていた2つの事件が邂逅した時、ああ、と思ってしまった。
そして映画のラスト、怖ろしい真実が示唆されて終わっていく。ああ、そうだったのか! 
これが、愚かな人間の行為だったのか。

原作者の貫井徳郎は映画化は不可能だろうと言っていたらしい。
しかし見事な映画になっていた。
こうなると、原作の叙述トリックがどうだったのか、読んでみたくなる。