1985年 台湾 119分
監督:エドワード・ヤン
出演:ホウ・シャオシェン、 ツァイ・チン
ひと組の男女の思いが台北の街で揺れる。 ★★★
エドワード・ヤン監督が1985年に撮った2作目の映画。
ヤン監督は2007年に亡くなっている。私は最後の作品「ヤンヤン 夏の想い出」(2000年)を観たことがある。
この映画は、2017年になって、今は監督として有名なホウ・シャオシェンが4Kデジタルで修復し、やっと日本初公開されたとのこと。
舞台は1980年代の台北。
この頃の台北は急檄に経済が成長して大きく都市化が進んだようだ。
どことなく懐かしさを感じるような都市風景のなかで、ひと組の恋人たちの思いが静かに揺れ動く。
アジン(ツァイ・チン)は有能なキャリアウーマンだったが、会社の併合があり職を失ってしまう。
アリョン(ホウ・シャオシェ)は、かっては少年野球の花形だったのだが、今は家業を継いで布地販売をしている。
幼なじみの二人は、もう長い間恋人関係らしいのだが、その長さの分だけ馴れ合いとも倦怠ともつかない惰性のような雰囲気をかもし出している。
物語は淡々とすすむ。
アジンは元会社の上司との不倫もしているようだし、アリョンは東京で暮らす元妻と会ったりもしているようだ。
しかし、それらのことも静かな映像で伝えられるだけで、特別にドラマチックに描かれることもない。淡々としているのだ。
落ち着いた色彩の映像は美しい。
富士通やNECの巨大なネオンサインが見えるテラスでの夜景は特に印象的だった。
ノスタルジックなお洒落感がある。
何かに似ているなと思っていたのだったが、ああ、そうか、ホウ・シャシェ監督の映画「珈琲時光」の雰囲気だった。
やはりヤン監督とホウ監督の感性は似ているところがあったんだな。
アリョンもアジンもそれぞれに一生懸命に生きている。
今のままではなくてなんとかしたいという焦燥のようなものも抱えているようだ。
それなのに、どこかやりきれないような諦感が伝わってくる。
アジンは二人でニューヨークへ移住しようという夢をアリョンに伝えたりもする。
そのアリョンは本質的に善人。しかも少年時代の栄光から抜け出せないような弱さもある。
アジンの父親が莫大な借金を背負うと、貯金をはたいて返済してやったりもする。
ヤン監督は「アリョンとアジンはそれぞれ台北の過去と未来を表している」と言っていたとのこと。
男女を描きながら、台北という街も描いていたのだろう。
淡々としていた映画の最後に事件が起きる。
しかしそれも無駄な説明を省いた映像だけで、ああ、そうなってしまったのか、と観ている者に伝えてくる。
台北という街が過去と決別した?