あきりんの映画生活

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「ポテチ」 (2012年)

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2012年 日本 68分
監督:中村義洋
出演:濱田岳、 木村文乃、 大森南朋

ほんわか人間ドラマ。 ★★★☆

 

伊坂孝太郎の短編の映画化。監督はもちろん中村義洋
68分という短さだが、その長さがちょうどいい心地よいドラマがそこにある。
舞台は伊坂ものなので、もちろん仙台。主人公ももちろん濱田岳

 

どこか頼りなさそうな今村(濱田岳)は、実は空き巣が生業。
同棲中の恋人の若葉さん(木村文乃)と一緒に、とあるマンションの一室に忍び込んでいる。
そこは今村が熱烈に応援しているプロ野球選手の尾崎の部屋だった。
と、そこの留守電に若い女性から尾崎に助けを求める電話が入る。
途惑う二人。どうする?

 

実は以前にも似たようなことがあったのだ。
そのときも今村が空き巣に入った部屋への留守番電話がかかってきたのだ。
電話の主の女性はどうやら家主の元カノらしく、これから飛び降り自殺をすると泣き喚いている。
お人よしの今村は、「キリンに乗っていくから、待っていて!」とわけのわからないことを言って、彼女がいるビルの屋上へ向かう。

 

濱田岳は伊坂+中村コンビの映画では、もう必須アイテムと言ってもよい存在。
真面目で人がよくて、それでいてどこか常識外れのようなところを持っている雰囲気が、作品によく合っている。

 

実は恋人の若葉さんは、そのときに飛び降り自殺を思いとどまった女性。
おやおや、好い展開だね。
今村の空き巣の師匠が通称”親分”(中村義洋監督が扮している)。
この親分は、少年野球をやっていた頃にフライが捕れなかったというエピソードの持ち主。
黒澤さん(大森南朋)という探偵もしている空き巣の先輩も登場する。
彼は無口で社交性ゼロなのだが、なかなかに好い人なのだよ。

 

さて、今村が、どうして尾崎の大ファンだったかというと、地元出身というだけではなくて、誕生日まで一緒だったのだ。
なるほど、そうだったのか。

 

タイトルは、今村が買ってきたポテチを若葉さんと食べる場面から来ている。
今村は頼まれていたものとは違う味のポテチを若葉さんに渡してしまう。
間違った味のポテチを食べた若葉さんは、こちらの味も美味しい、間違ってもらって、かえって良かったかも、と言う。
その言葉に今村は急に号泣する。えっ?
実際のところ、この場面でなぜ今村がそんなことで泣くのかは判らずに、見ている人は呆気にとられる。
しかし、映画を見終えるころには今村の気持ちはじんわりと浸みてきているのだ。

 

いろいろと散りばめられていた伏線が見事に回収されていく。
ああ、そうだったのか。
クライマックスは今は落ち目になっている尾崎選手が代打で登場する場面。
(なぜ、登場できたのかにも裏があったのだが・・・)

 

(以下、最後のネタバレ)

 

エンドクレジットの後の映像は、フライを捕れずじまいだったあの中村親分。
親分がタクシーを停めるために上げた手に、尾崎の打った場外ホームランボールがスポンと飛びこんでくる。
そんな馬鹿な!と言うところだが、伊坂作品らしいファンタジー場面だった。

今村の気持ちが切なくて、それでいてじんわりと温かいものが伝わってくる作品です。
小品ですが、お勧めです。