
2025年 123分 日本
監督:熊澤尚人
出演:坂口健太郎、 渡辺謙
サスペンスもの。 ★★★
このところ将棋をテーマにした漫画を読んでいた。「龍と苺」や「リボーンの棋士」などである。どれも面白かった。
そこでこの映画である。原作は柚月裕子の同名小説。
棋士の物語だが、柚月裕子らしく他の将棋ものにはないような暴力的な雰囲気が流れている。
物語の発端は山中で発見された白骨死体。
死体と一緒に埋められていたのは、この世に7組しかない希少な将棋駒のセット。
なぜこんな貴重なものが死体と一緒に埋められていたんだ? 犯人は何を考えていたんだ?
事件を追う刑事(佐々木蔵之介)は、駒の持ち主が天才棋士の上条桂介(坂口健太郎)であったことを突き止める。
彗星のように棋界にあらわれ、今は世間を騒がせる上条だが、彼は異色の経歴でプロ棋士になったのだった。
映画は、虐待を続ける父親に育てられた幼い日からの上条の軌跡を追う。
まあ、上条の父親(音尾琢真)がクソ親父。人間のくず。
しかし妻を失ってから虐待をする息子に、おまえも俺を見捨てるのか、と泣きすがる父親の姿には、人間は一面的には捉えきれない感情があるものだと思わされる。
これは上手い設定だった。
そして若き日の上条の前にあらわれたのが東明重慶(渡辺謙)。
彼は賭け将棋という裏の世界で圧倒的な強さを誇る”真剣師”の男だったのだ。
東明の指す将棋に魅せられていく上条。
この映画の重々しさ、迫力はやはり渡辺謙がもたらしていた。坂口健太郎だけではなかなかここまでのサスペンスにはならなかっただろう。
東明が大金を賭けて東北一の真剣師(柄本明)と戦う場面がある。
面白いのだが、不満がひとつ。それはほとんど盤面を映さずに物語をすすめてしまっていたところ。
こうした将棋や囲碁の物語では、その盤面の雰囲気を伝えてくれないと、どんなにすごい戦いがおこなわれているのかということが感じ取りにくい。
それにしても、こうした将棋や囲碁の天賦の才のある人が見る風景というものには、常人には想像もつかないものがあるのだろう。
この映画の上条は違う道のりだったわけだが、通常のプロは、小学生のころから奨励会に入り、三段リーグを勝ち抜いてプロになって、そのあとも一生将棋を指し続けていく。
周りには四十歳、五十歳になっても小学生時代から戦ってきたライバルがずっといるわけだ。
普通の社会では考えられない世界である。
さて。
ある死体を発端に、担当刑事の熱心な捜査によって被害者や容疑者の知られたくない過去が明らかにされていく展開は、あの名作「砂の器」をおもいださせるものだった。
最後、大勝負の会場で対局場に向かう上条の前に刑事が立ちふさがるという場面も、あの映画の最後に重なるような・・・。
原作小説も読んだはずだったが、ほとんど忘れていた。
皮肉なことに、そのために映画を充分に楽しむことができた(汗)。
エンドクレジット時に流れる桑田佳祐の歌は好いものだった。彼は映画のためにもよい曲を書くね。