あきりんの映画生活

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「哀れなるものたち」 (2023年) 哀れなる者、それは男なり

2023年 142分 イギリス 
監督:ヨルゴス・ランティモス
出演:エマ・ストーン、 マーク・ラファロ、 ウィレム・デフォー

18禁のダーク・ファンタジー。 ★★★★

 

奇妙な世界観の作品を撮るヨルゴス・ランティモス監督。
「ロブスター」でのシュールな物語展開にはすっかりやられた。
この作品は同名小説(未読)を映画化したとのこと。
さて、どんなだ?

 

舞台はヴィクトリア朝時代のロンドン。
妊婦であったベラ(エマ・ストーン)は自ら命を絶つが、天才外科医ゴッドウィン、通称ゴッド(ウィレム・デフォー)によって自らの胎児の脳を移植され、奇跡的に蘇生する。
なので、ベラは身体は大人の女性だが、精神も動作も生まれたばかりの幼児並なのだ。

 

このアンバランスさがこの映画の根幹。奇妙な世界を形作っている。
彼女の心は無垢な好奇心で溢れている。無邪気な幼児は、世界はどんな事で出来ているの?
そんな彼女は、女たらしの弁護士ダンカン(マーク・ラファロ)に誘われて旅に出る。
待っててね、いろいろなものを見たら帰ってくるから・・・。

 

絵本のような、どこか人工的な色彩感の映像が見事。
部屋の中はおとぎの国のような、どこか現実離れした装飾で満たされ、街中では建物の間を空中を乗り物が行き交っている。
そんな世界風景が、物語の設定とよく合っていた。

 

大陸横断の旅に出たエマは性の喜びに目覚め、ダンカンとの情事に熱中する。
エマ・ストーンの、ここまでやるのか!といった大胆演技に圧倒される。
しかしその場面もイヤらしいというよりも、新しい感覚の目覚めに興奮しているといった感じ。

 

そうなのだ、女性の性の解放とかお題目を唱えればいくらでも出来るのだが、そういったことではなくて、子どもが新しい遊びに目覚めたといった次元のことのように思えた。
既成観念にとらわれずに女性が成長していくということを、極端に戯画化して見せている。

 

本作のテーマは、女性の自由、あるいは女性の自立、である。
裏を返せば、女性をコントロールしたいという男性の欲望を暴く、ということでもあるだろう。
実際、ダンカンにしても、元夫にしても、それぞれのやり方でベラをコントロールしようとする。
しかしベラはそんな男たちの思惑をはねのけて自分の意思を通していくのだ。

 

痛快な映画であった。
私は男であるわけだが、女性が観たらおそらく私以上に痛快な気持ちになるのではないだろうか。

 

(余計なこと)
最後、病み衰えていくゴッド。
もしかしたら、今度はエマがゴッド脳をあの憎たらしい元夫の身体に移植するのではないかと思いながら観ていた。
そうすればエマもゴッドも、めでたしめでたし・・・。

 

・・・そうはならなかった。
ヨルゴス監督って、動物と人間を文字通りにくっつけるのが好きだったんだ!

 

ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞している。英国アカデミー賞でもいくつもの賞を獲った。
米国アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演女優賞など計11部門にノミネートされている。はたしてこちらでの受賞は?