あきりんの映画生活

映画鑑賞だけのブログです。★★★★が満点評価ですが、ときに思い入れ加算があります。約2000本の映画について載せていますので、お目当ての作品を検索で探してください。監督名、主演俳優名でも検索できます。

「愛さえあれば」 (2012年)

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2012年 デンマーク 116分
監督:スザンネ・ビア
出演:ピアース・ブロスナン、 トリーネ・ディアホルム

大人のための恋愛ドラマ。 ★★★

 

南イタリアを舞台に、夫に裏切られた女性と、妻と死別した男性がもどかしい愛を育てていく物語。
なんて書くと、典型的なメロドラマかと思ってしまう。
しかし、見方によっては、この映画はブラック・コメディである。訳ありの人物ばかりが登場してくる。

 

乳癌の治療を終えたイーダ(トリーネ・ディアホルム)は、夫の浮気現場に遭遇してしまう。
来週には娘の結婚式でイタリアへ行かなくてはならないというのに・・・。
一人で旅立ったイーダは、娘の婚約者パトリオットの父フィリップ(ピアース・ブロスナン)と出会う。
始めはお互いに、感じ悪!と思っていたのだが・・・。

 

悲しみが乾くまで」が好くて贔屓になったスザンネ・ビア監督だったが、こんな設定の映画も撮るんだ。
しかし、「セリーナ 炎の女」にしても「ある愛の風景」にしても、さまざまな状況下での男女間の愛な形を描いていたし、これが彼女の持ち味なのだろう。

 

結婚式がおこなわれるフィリップの別荘には次々に出席者が到着する。
なんとイーダの夫ライフは浮気相手も連れてきてしまう。
その若い浮気相手は、皆にライフの婚約者よと自己紹介をして回っている。おいおい、なんて無神経な奴なんだ。

 

フィリップの亡くなった妻の(図々しい)姉は、実はフィリップに片思いしている。
勝手な勘違いをして強引にフィリップに迫ってくる。おいおい、あんた、本当は嫌われているんだよ。
おまけにその娘はジコチュウで、ちょっとイッテしまっている。
罵りあいの母娘喧嘩まで始めてしまう。おいおい、結婚式前夜なんだぜ。

 

さらに、新郎のパトリオットは、どうもゲイらしい雰囲気をかもし出している。
彼ったらちっとも抱いてくれないの・・・。
明日結婚するというのに、どうするんだ?
そんなてんやわんやがくり広げられているうちに、イーダとフィリップは互いに惹かれ始める。

 

ヒロイン役のトリーネ・ディアホルムは初めて観る人。
個人的にはそれほど魅力的とは思えなかったのだが(汗)、格好いい中年オヤジのフィリップが惹かれてしまったのは何故?
そのあたりはちょっと唐突感があった。

 

原題がどうなのかは知らないのだが、邦題は内容とはずれている。
想像されるような純愛、しっとり、といったものではなく、毒気があるラブ・ロマンスものだった。
でも最終的にはハッピーエンドとなっていく。ま、そこは気持ちよく見終わることができた。

どちらかといえば女性向けの映画かな。

 

 

「サーホー」 (2019年)

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2019年 インド 169分
監督:スジー
出演:ブラバース、 シュラッダー・カプール

インド版てんこ盛りエンタメ映画。 ★★★☆

 

インド映画に期待してしまうエンタメがぶち込まれている映画。
アクションあり、サスペンスあり、恋あり歌あり踊りあり。もうなんでもあり(笑)。
主役はあの「バーフバリ」主演のプラバース。

 

一度は抗争に敗れた組織のボスのロイは、犯罪都市ワージーで大きく組織を発展させる。
しかしそのロイはムンバイで何者かに暗殺されてしまう。
さあ、跡目をめぐっての組織内での対立が勃発する。さあ、これでボスの座は俺のものだ。
とそこに、ロイの一人息子ヴィシュワクが登場する。
さあ、俺が跡目だぜ。誰にも文句は言わせねえぜ。

 

それとは別に、あざやかな手口で大金を強奪する謎の一味も登場する。
こいつ等は何者だ?
もちろん警察は躍起になってこの強奪犯を捕らえようとする。
そこでめちゃ格好付けた優秀刑事アショーク(プラバース)が登場する。
彼はちゃんと女性捜査官アムリタ(シュラッダー・カプール)に目を付けて一緒に捜査にあたる。

 

ということで、お話はかなりややこしい。
裏組織の中での抗争劇あり、強奪犯の捜査劇あり、主人公たちの恋物語あり。
そこにロイの莫大な隠し資産も絡んでくる。
その資産のありかを指し示す“ブラックボックス”の争奪戦も起こるのだ。
ね、ややこしいでしょ。

 

もちろんインド・エンタメ映画だから美男美女の恋物語はお約束。
突然始まるダンス・シーン。歌って踊る。
それも、それまでとはまったく無関係の山の上とかで踊り始めたりする。おいおい、物語はどうなったのだ?
意味不明に突然に戦車が出てきたりするのも面白い。
ヒロイン役のシュラッダー・カプールは初めて観たのだが(整形前の)デミ・ムーアに似ていた(苦笑)。

 

正直なところ、物語にはごちゃごちゃ感が拭いきれない。
それというのも、ほとんどの登場人物に「裏の顔」がある事。スパイ、2重スパイの人物も多く登場。
それぞれの思惑が絡んで騙し合いをするものだから、誰を信じて観ていたらいいのやら。
ひとり正直なのはアショークにすっかり恋してしまったヒロインだけ。

 

1時間半ぐらい経った頃にやっとタイトルがやっと出てくる。
俺が本当のヴィシュワクだぜい(と、観ていない人には意味不明 汗)。
タイトルのサーホーとは“万歳”という意味らしい。

 

でもまあ、とにかくやってくれる。
ワイルドスピード」と「ミッションインポッシブル」を合わせて、そこに銃撃戦を加えたようなもの。
背中のジェットパックで空飛ぶ警官、通称「ジェットマン」なんてハチャメチャな警察も登場する。
まるでアベンジャーズのファルコンである。
主役二人が互いに交差し合いながらのダンスのような銃撃アクションは「Mr.&Mrs.スミス」のブラピとアンジーを思い出させてくれたぞ。

 

169分という長丁場だが飽きることのないエンタメ性はさすが。
しかし見終わったら、やはり映画2~3本を観たぐらいに疲れは残った(汗)。
満足、満足。

 

「一度死んでみた」 (2019年)

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2019年 日本 93分
監督:浜崎愼二
出演:広瀬すず、 堤真一、 吉沢亮

底抜けコメディ。 ★★★

 

タイトルからして、なんかおふざけだなと思っていた。
でも広瀬すずだからな、観てみようか・・・。

 

製薬会社社長の父(堤真一)への反抗期真っ最中の七瀬(広瀬すず)は、売れないデスメタルバンドのボーカル。
彼女は大嫌いな父への不満をぶちまけるように“一度死んでくれ!”と歌い叫んでいた。
そんなある日、父が本当に死んでしまった。
えっ、私があんな歌を歌ったから・・・?

 

髪を染めてヘヴィメタル風の衣装を着ていても、やはり広瀬すずは可愛い。
髑髏マークのシャツを着て、〇〇、デスっ!と(デスメタルだから)反抗して叫んでみせても、やはり可愛い。
可愛い娘って得だよなあ。何をやっても許されちゃう。

 

と、それはさておき。
実は父は本当に死んだのではなく、“2日間だけ死んじゃう”という新薬を飲んでみただけ。
会社の中の裏切り者を見つけるというのが目的だったのだが、敵は、生き返る2日後よりも前に火葬してしまおうと企む。
おいおい、そんなことをされたら、本当に死んでしまうよ。

 

で、なんとか父を生き返らせようとする七瀬と、協力者の秘書(吉沢亮)が、ばたばたと敵と戦う。
これからも判るように、肩の凝らない痛快ドタバタコメディ。

 

冥界への案内役(要するに幽霊)のリリー・フランキーが好い味を出していた。
葬儀場面で木魚が規則正しく打ち鳴らされているときに、フランキーが「とんとん、とんとん」と言いかける
あわてて堤真一が「あ、それ(日野の2トンですね)はいっちゃダメ」と制止したのは面白かった。

 

かなりの有名どころがちょい役で出ているという噂は聞いていた。
でんでんとか柄本時生竹中直人などはすぐに判った。一瞬だけ顔を見せた佐藤健に気づけたときは嬉しかった(苦笑)。
しかし、妻夫木聡は判らなかったなあ。

 

父を入れた柩に火葬場の点火スイッチが入れられてしまったときは、どうなるかと思っていた。
しかし、見事にやられた、まさか宇宙服を着込むとは。
それに狭い棺桶の中で着替えることのできるスキルも、ちゃんと伏線が張られていた。
それにあらわれてきたときの音楽があの名画のパクリで来るとは。
お見事。

 

正直なところ、時間つぶしぐらいのつもりで観たのだが、予想以上に楽しめた。
なかなかにお勧め、デス!

 

「弥生、三月」 (2020年)

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2020年 日本 109分
監督:遊川和彦
出演:波璃、 成田凌、 杉崎花

恋愛ドラマ。 ★★

 

1986年3月1日に高校生だった太郎(成田凌)は弥生(波璃)と出会う。
それからの30年間を3月のある1日だけで描いている、という設定に興味を覚えて鑑賞。

 

太郎と弥生は互いに惹かれ合っていたのだが、弥生の親友のサクラ(杉崎花)も太郎が好きだったのだ。
そのサクラは不治の病に罹っていたために、弥生はサクラの希望を砕くことはできなかった。
そしてサクラは卒業を待たずに亡くなってしまう。
太郎と弥生はいなくなったサクラを間に挟んで歩み寄れないまま、別の人生を歩きはじめる。

 

何年かにもわたってある1日だけを描く、という手法の映画には、アン・ハサウェイの「ワン・デイ 23年のラブストーリー」があった。
あちらは23年間の毎年の7月15日だけを描いていたのだった。
今作は弥生三月のある1日を描いていく。

 

始めのうちは3月1日、次の年は3月2日となっていたので、ああ、なるほど、と思っていたら、途中からは急に5年ぐらい飛んだりして、法則性が崩れていた。
(2011年の3月では、11日から始まっての数日間分を1年で使ってもいた。まあ、ここは仕方がないか。)

 

やがて互いにパートナーを見つけ、太郎には息子も生まれるが…。
実は太郎はできちゃった婚
その結婚式のときに、気さくな太郎の母親(黒木瞳)は、私はね、太郎には弥生さんと結婚すれば好いなあと思っていたのよ、などという.。
結婚式の日にそんなことを言われても困っちゃうよなあ(笑)。
でも、ここはまあ、観ている人の気持ちを代弁したのだと捉えておこう。
一方の弥生は、(理不尽な)親の借金を返すために望まない結婚をしようとしたりもする。

 

月日が流れ、息子を守ろうとして怪我をして夢を絶たれた太郎は、離婚して自暴自棄になってしまう。
そんな彼を立ち直らせたのは、夢をかなえて教師になっていた弥生だった。

 

しかし、震災で夫を失って気力を失ったのは今度は弥生だった。
そんな彼女を励ましたのは、太郎だった。

 

最後になって、やっとふっきれた二人が互いの思いを確認する。好かったね。
しかし、ここで二人が「上を向いて歩こう」を歌い始めたのは、興ざめだった(汗)。
ちょっとミュージカルっぽい明るくお洒落なエンディングを、ということだったのかもしれないが、完全に浮いていた。

 

ツッコミをひとつ。
サクラのお墓の場面、登ってくる人がこちらから見えるのだったら、向こうからもこちらが見えているはず。
登ってくる人は目的地を確かめながら歩くのが普通だし・・・。
それに隠れて丘を降りていく人に全く気づかないのも不自然だったなあ。

 

30年間の物語というのだから、高校生の15歳から始まって終わりは45歳。
最後のあたりは、主役二人が若すぎるように思ったけれども、こんなもの?

 

構成としては面白い作りだったのだが、内容はベタだった。
ただ、サクラが亡くなる前に二人に残したカセットテープ、という趣向は好かった。
亡くなった人が残したものって、まず涙を誘える(と、こんなことを言ってはいけないか・・・)。

 

おまけのような最後の場面は、おお、そうきたかということで、面白かった。
山田太郎って、そういう由来の名前だったんかい(笑)。

 

「Red」 (2020年)

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2020年 日本 123分
監督:三島有紀子
出演:夏帆、 妻夫木聡、 柄本祐

不倫にはしる人妻。 ★★☆

 

原作は直木賞作家の島本理生の同名小説。
小説発表当時は性描写のきわどさがかなり取り上げられていたように記憶している(未読)。
しかし映画では必要と思われる描写だけになっていた。

 

ヒロインは、一流企業勤務の夫と幼稚園児の娘を持つ村主塔子(夏帆)。
ある日、塔子は夫のお供で出席したパーティ会場で鞍田秋彦(妻夫木聡)と再会する。
鞍田は人気のない部屋でいきなり塔子の唇を奪う。

 

実は、10年前に塔子はその当時は妻帯者だった鞍田と愛人関係にあったのだ。
今は幸せそうな生活をしているように見える塔子だが、男目線でしか接してこない夫や、同居している義母との生活に鬱屈したものを抱えていることは、上手く描かれていた。
鞍田の所属する設計事務所で働きはじめる塔子。
自然の成り行きとして、二人は密会をおこなう仲となる。

 

映画は時間軸をいくらかシャッフルして描いている。
上に書いたような二人の様子と交互に、夜の雪道をどこまでも走っていく車の二人が映される。
車を停めて、雪の中の公衆電話から塔子は電話をかける。
トラックの荷台からちぎれた真っ赤な紅い布が、雪の中を風にあおられて飛んでいく。
雪中を行く二人は道行きを思わせた。
不幸しか待っていない雪道の雰囲気だった。

 

映画は、何を描くか、と、どのように描くか、の両者が巧みにかみ合って成立する必要がある。
後でも述べるように、何が描かれたかについてはことさら新鮮なものは感じなかったのだが、しかし、描き方の感覚にはときおり鋭いものを感じた。

 

ヒロインの夏帆は、「海街ダイアリー」で観た三女役とは印象がまるで違った。
会社の同僚の小鷹(柄本佑)が、塔子に向かって「お前、結構エロいなあ」と言うのだが、たしかに隠微な雰囲気も出していた。
その柄本佑が好かった(この人は実力者だと思う)。
チャラい感じなのにどこか思慮深げなところも見せて、物語を引き締めていた。

 

ナラタージュ」のときも思ったのだが、島本理生が描いたのは徹底的に女性目線で語られる物語だった。
それを女性監督が撮っているので、原作の狙いは的確に捉えられたのだろうと思う。
ということでこの映画は女性と男性ではかなり感想が異なるのではないだろうか。

 

男性である私は、女性ってこんな感覚なのかと思ってしまったのだが、それは女性に対して抱いている先入観念からも来ている部分があるのだろうなあ。
おそらく女性が観れば、もっと細やかに描かれている部分が判るのだろう。
あ、ここは新鮮だと思う部分に気づくことが出来るのかもしれない。

 

(以下、ネタバレ)

 

物語の最後は、原作小説とはまったく違うようだ。
鞍田の死後、幼い娘のために家庭に戻る妻か、それともやはり家庭を捨てて孤独の道を選ぶ女か。
塔子の選択はどちらが、どうだったのだろう?

 

「初恋」 (2019年)

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2019年 日本 115分
監督:三池崇史
出演:窪田正孝、 小西桜子、 ベッキー、 染谷将太、 大森南朋

バイオレンス恋愛もの。 ★★★☆

 

タイトルは「初恋」である。
しかし監督は三池崇史である。誰もロマンス溢れる純愛ものは期待しないだろう。
その通り。恋愛ものではあるのだが、バイオレンスなのである。

 

余命わずかと診断されたボクサーのレオ(窪田正孝)は自暴自棄になってしまう。
どうせ死ぬんだ、俺にはもう怖いものなんか何もねえぞ。
そんな彼はヤクザ組織から逃げようとした少女モニカ(小西桜子)と出会う。
二人は訳が分からぬままに裏社会での争いの渦に呑み込まれていく。
ということで、これは世間からははみ出したような二人が出会ったたった一夜の物語。

 

舞台は新宿・歌舞伎町。
どろどろとした欲望が剥き出しで渦巻いているような街。
モニカを追いかけてきた男を、レオは反射的にノックアウトしてしまうのだが、その男・大伴(大森南朋)は悪徳刑事だった。

 

大伴はヤクザ組員の加瀬(染谷将太)と手を組んで、組織の資金源である麻薬を横取りしようと企んでいた。
そこに組と対立している中国マフィアが絡んでくる。
こうしてヤクザに追われるレオとモニカは、ヤクザと中国マフィアの抗争にも巻き込まれていく。

 

塩見三省が扮する組長代行も凄みがあったが、染谷将太のチンピラ・ヤクザ役もそれなりに堂に入っていた。
どこまでいってもチンピラ的な雰囲気を漂わせながらも、平気で殺人もしてしまう切れっぷりが好かった。
彼が美味しいところをかなり持っていっていた。

 

キレっぷりと言えば、この映画で話題になったのはベッキー
殺されてしまった下っ端ヤクザの情婦なのだが、彼の恨みを晴らすべく鬼の形相となる。
大きなバールをズルズルと引きずって歩く姿は、もはやゾンビである(笑)。
もうロドリゲス映画の一場面と言ってもいいぐらいだったぞ。

 

脇役で印象的だったのは、対立する中国マフィアの女組員。
中国人なのに高倉健を崇拝していて、仁義を重んじているところが面白い。
最後のあわやという場面では、主人公の二人を逃がしてくれたりもする。

 

モニカは幼い頃から継父の性的暴行を受けていたようだ。
そんな彼女が麻薬の禁断症状で見る幻覚が、妙にギャグ要素があるものだったのには違和感があった。
あそこは変にふざけない方が好かったのではないかなあ。

 

さて終盤、抗争場面になると、腕は切り落とされるわ、首は吹っ飛ぶわ。
明け方近くになって、警官隊に包囲されている駐車場からの脱出場面となると・・・。
これには笑ってしまった。
おいおい、そんなことまでするのかよ。さすが三池監督。
和製タランティーノよりももっとすごいぞ。和製ロドリゲスだな。

 

確かに”初恋”なのだろうけれど、三池監督らしい一筋縄ではいかない物語だった。
繰り返しになりますが、純愛ものではありません。バイオレンスものですよ。

 

 

「廃市」 (1984年)

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1984年 日本 105分
監督:大林宣彦
出演:小林聡美、 山下規介、 峰岸徹、 根岸季衣

文芸作品。 ★★☆

 

原作は福永武彦の同名小説。
彼は堀辰雄などとも親交のあった純文学者だが、別名で推理小説を書いていたり、映画「モスラ」の原作者のひとりであったりもする。へえ~。

 

さて、物語の舞台は運河のある街Y市。
原作のモデルとなったのは九州の柳川で、撮影も柳川でおこなわれている。
タイトルの”廃市”という言葉は、柳川出身の北原白秋の作品から福永がとったようだ。

 

卒業論文を仕上げるために江口(山下規介)は、かってのある一夏をそのY市の旧家で過ごしたことがあったのだ。
Y市が火事になったという新聞記事に、江口は十数年前のそのひと夏のことを思い出す。
その旧家には祖母の面倒をみる安子(小林聡美)がいた。

 

監督は先日亡くなった大林宣彦
大林監督の尾道三部作、新尾道三部作は、どこか郷愁に溢れていて好きだった。
(中では「時をかける少女」と「ふたり」が特にお気に入りである)
この映画に流れるナレーションも大林監督自身。訥々とした語り口である。

 

映画全体の雰囲気は静かで暗い。そして画面は美しく抒情的。
Y市はいたるところに水路がめぐらされていて、そこを行き交う舟が主たる交通手段であるような街である。
水を行く舟の櫂の音だけが聞こえてくるような、そんな映画である。

 

安子は江口に、ここは死んでいく街だ、といった意のことを告げている。
そうなのだ、これは死んでいく静かな街での、諦観にも似た愛が交差する映画だった。

 

安子には結婚している姉(根岸季衣)がいるのだが、その姉はなぜか寺で生活している。
そして取りのこされた義兄(峰岸徹)は家を出て愛人と暮らしている。
表面上は義兄の浮気で夫婦関係が破綻したように思えるところだが、実は、義兄は誰よりも姉を愛しているのだった。
しかしその姉は義兄の愛が信じられずに、半ば病的にその愛を拒絶しているのだ。

 

(以下、物語の後半)

 

二人の間で揺れうごく安子。
そして安子を通してそんな人間関係を知っていく江口。
実は、安子も義兄を愛していたのだ。
そして姉は、義兄も安子を愛しているのだろうと思い込んでいたのだ。
そんな義兄は愛人と無理心中をしてしまう。
それは、すれ違ったままの愛の終わり方だったのだ。

 

語り手である江口は、ただその街を通り過ぎていくだけの存在である。
ひと夏だけ滞在した、いわば旅人にすぎない。旅人はどこまでしてもその土地には迎え入れられることはない。
そうした通り過ぎる人の目から見た街と、そこに住む人が描かれている。
そんな疎外感も郷愁の一部となっているのだろう。

 

予定外に取れた2週間の夏休みに、16mmカメラで撮影したとのこと。
大林監督らしい地方都市を舞台にした作品で、どこまでも郷愁にあふれていました。