2022年 99分 日本
監督:三宅唱
出演:岸井ゆきの、 三浦友和
ボクシングもの。 ★★★
ヒロインのケイコ(岸井ゆきの)は耳が聞こえないながらもプロのライセンスを持つボクサー。
ホテルの清掃係りの傍らボクシングジムに通い、トレーニングの毎日を送っている。
実際の聾唖女子プロボクサーの自伝を原案にしたとのこと。
人付き合いが苦手なケイコだが、障害を抱えながらひたむきに生きている。
そんなケイコが暮らすのは再開発が進む下町。
華やかさとは無縁のそんな街の光景が、(地味な)ケイコの生き方には好く合っていた。
女子ボクサーの映画としては安藤サクラの「百円の恋」があった。あれは好い映画だった。
そしてイーストウッド監督の「ミリオンダラー・ベイビー」。もう名作の誉れ高い映画だが、ラストが哀しいといった噂を聞いているのでまだ鑑賞していない。
いつかは見なくては。
さてこの映画。
岸井ゆきのが実に生々しくヒロインを演じていた。
聾唖者の演技、そしてボクサーとしての身体の動き。どちらも大したものだった。
物語自体はどちらかといえば地味なものなのだが、彼女の演技に惹き込まれて見終わったという感じであった。
大事件が起きるわけでもない物語なのだが、どんな人にもそれぞれのドラマはあるのだ。
ケイコが通っていた小さなボクシングジムは経営不振で閉鎖することになる。
これまで自分を励ましてくれたジムの会長(三浦友和)のもとでの最後の試合に挑むケイコ。
そうか、耳が聞こえないと、ゴングはもちろん聞こえないし、セコンドの指示の声も聞こえない。
レフリーの注意の声も聞こえないわけだ。
これは健常者に比べると大変なハンディキャップになるのだな。
映画は淡々と終わっていく。
いたずらに感情をあおるような音楽もなく、すべての音がつつましく静かに聞こえてくる。ケイコのいる音のない世界に近づこうとしているようだった。
そんな世界の中で、今日一日を一生懸命に生きた続きの明日がやってくるのだよ、といった感じであった。
好い映画だった。