あきりんの映画生活

映画鑑賞だけのブログです。★★★★が満点評価ですが、ときに思い入れ加算があります。約2000本の映画について載せていますので、お目当ての作品を検索で探してください。監督名、主演俳優名でも検索できます。

「ダルバール」 (2020年) 歌って踊って暴れまくるぞ、これでどうだっ!

2020年 インド 158分
監督:A・R・ムルガダース
出演:ラジニ・カーント、 ナヤンターラー

勧善懲悪エンタメ映画。 ★★☆

 

インド映画は楽しければそれで好いだろうと何でも詰め込んでくる。
ところ構わずに主人公たちは踊り始め歌い始める。そこに愛はあっても理屈はありませんっ。
そして長い。
長く楽しめてお得でしょ!というサービス精神のようだ(苦笑)。
インド映画を楽しむためには、まずは以上を受け入れなくてはならない。

 

主人公を演じるのはインド映画界のスーパースター、ラジニカーント
彼を初めて観たのは1995年の「ムトゥ 踊るマハラジャ」だった。
そして、あの映画の飛び抜けた面白さで私はインド映画に目覚めたのだった。

 

そんなラジニカーントも、あのスタローンやシュワルツェネッガーと同じように70歳超えのおじいちゃんになってしまった。
年月は誰にも同じようにしわを刻みつけ、体力を衰えさせる。宜なるかな
しかしラジニカーントのすごいところは、今でも中年止まりの役を演じているところ。
それも堂々と臆面もなく演じてしまう。すごい。さすが。

 

この映画でもオープニングにはいきなり「スーパースター!! ラジニカーント」と大きく映し出される。
これでも分かるようにこの映画、全編すべて彼のための映画(笑)。

 

物語としては、無双の警察署長が大暴れをして悪人をやっつけるという、まあ、決まり切ったもの。
それで好いのだよ。

 

さて。ムンバイでは麻薬がはびこり、女性の誘拐が多発していた。
そこで凄腕警官のアーディティヤラジニカーント)がムンバイ市警察長官に迎えられる。
私が来たからにはお任せください。
アーディティヤは麻薬密売組織を徹底的に摘発する。
正義は我にあり、悪を倒すためだったら何をしてもかまわんぞっ!

 

その合間には、インド映画おきまりのコミカル恋物語も華を添える。
例によってインド映画のヒロイン(ナヤンターラー)は絶世の美女。
彼女の心を掴もうと、ラジニカーントが歌って踊るぞ。
それにアーディティヤの腹心の部下の女性警官も可愛かったぞ。

 

しかし、麻薬組織も黙ってはいない。アーディティヤの最愛の娘を襲ってくる。
おのれ、許さんぞ。前にも増して暴れまくるアーディティヤ。日本刀(?)片手にばったばった。
鉄拳を振るえば、すごい勢いで人間が吹っ飛んでいくぞ。

 

相手を叩きのめしては臆面もなく決め顔、ドヤ顔をカメラに向かって見せてくれる。
さすがスーパースターだ。
傑作なのは「俺ってワルな警官~!」と歌いながら、肩を怒らせて誇らしげにズカズカ歩くシーン。
さすがラジニカーント様だ(笑)。

 

細かいことを気にしてはいけません。
これはインド映画なのだと、すべてのことに寛大な気持ちになって楽しみましょう。
そうすれば、ほら、スーパースターのドヤ顔に思わず拍手喝采をしたくなるでしょ。

 

 

 

「ジェントルメン」 (2020年) お前もワルよのぉ

2020年 イギリス 113分
監督:ガイ・リッチー
出演:マシュー・マコノヒー、 チャーリー・ハナム、 ヒュー・グラント
    コリン・ファレル、 ヘンリー・ゴールディング

ノワール・サスペンス。 ★★★☆

 

主人公は麻薬王のミッキー(マシュー・マコノヒー)。
彼は総資産4億ポンドの大麻王国を売却して引退を考えている。
妻(ミシェル・ドッカリー)と二人でのんびりと余生を過ごしたいぞ。誰か、俺の組織のよい買い手はいないか。

 

ミッキーが売却を持ちかけたのは悪の富豪のマシュー、その売却話に割り込んできたのが中華系マフィアのドライ・アイ。
そこにミッキーに怨みを抱くゴシップ紙編集長や、ミッキーの秘密大麻農園を襲った不良たちとその指導者のコーチ(コリン・ファレル)が絡んでくる。

 

と書くと、とてもややこしいように思えるが、人物造形がたっているのでそれほど混乱することはない。
やはり、ガイ・リッチーはこういった群像劇風の描き方が巧いんだろうな。

 

ガイ・リッチー監督といえば、「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」や「スナッチ」がよかった。
いろいろな悪人集団の騙し合いや殺し合いを複雑に絡ませて、サスペンスものとして見せてくれる。
そのあとの「シャーロック・ホームズ」シリーズや「U.N.C.L.E.」は、確かに面白かったのだが、私がガイ・リッチー監督に期待したものといささかずれていた。
しかし、本作は、これぞ、ガイ・リッチー!という出来映えになっていた。

 

映画の構造も面白い。
ゲスな私立探偵のフレッチャー(ヒュー・グラント)が、ミッキーの片腕であるレイ(チャーリー・ハナム)に、密かに取材したネタを語る形になっている。
フレッチャーは、これだけの秘密を握っている、これをバラされたくなかったら2000万ポンドを払え、と脅しているわけだ。

 

フレッチャーの話の内容が映像化されているわけだが、時おりレイが、いやいやそこは違うだろ、と口を挟むと、あ、そうだ、本当はこうだった、と訂正映像になったりする。
時間軸も行ったり来たりするし、あのときは本当はこうだったんだ、という映像も入る。
フレッチャーとレイの腹の探り合いも、楽しいね。

 

麻薬マフィア同士の争いだから、もうばんばんと人が死ぬ。
知的な参謀といった雰囲気のレイも、やるときはやるのである。
秘密写真を取り返そうと不良を追ったレイは、逆に不良の集団にからまれてしまう。
と、レイはやおらコートの下からマシンガンを取りだして、いきなり威嚇射撃をおこなう。
坊やたち、こちらはお遊びじゃないんだぜ。舐めるんじゃないぜ。
素人である不良たちのとても相手ではない。こちら、本物のマフィアだぜ。

 

セレブ感いっぱいのミッキーの妻もなかなかにやるのである。
ミッキーをやっつけるために2人の手下を連れたドライ・アイが妻の事務所を襲う。
妻はおもちゃのような小型拳銃で手下の眉間をあっさりと撃ち抜く。
しかし弾は2発しかなかったのだ。
危うくレイプされそうになる妻。
そこへ、妻こそ命!のミッキーが駆けつける。まさに犯されそうになっていた妻が言う、あら、あなた。
粋だなあ。

 

脇役のような出方なのだが、コーチ役のコリン・ファレルが好い。
騒動の巻き添えを食っただけなのだが、「スナッチ」のブラッド・ピットのような感じで、何を考えているのだか判らないままに暴れまくる。

 

しかし一番の役者は、抜け目がなさそうに小狡くて、そのくせ意気地なしの探偵役のヒュー・グラントだったか。

 

とにかく久しぶりにガイ・リッチーらしい映画を堪能した。
お勧めです。

 

「オン・ザ・ハイウェイ」 (2013年) 登場人物はただ一人、会話は電話だけ

2013年 イギリス 86分
監督:スティーブン・ナイト
出演:トム・ハーディ

映るのは運転席の主人公だけ。 ★★★

 

副題は「その夜、86分」。
そのタイトル通りに、ハイウェイを走る一台の車の様子86分間が描かれている。
というか、それしか描かれない。
登場人物は、その車を運転しているアイヴァン(トム・ハーディ)、ただ一人だけ。
さて、この映画、面白いのか?

 

夜、工事現場の仕事が終わり車に乗り込むアイヴァン。
運転しながら彼はハンズフリーの状態でいくつもの電話をかける。そして電話を受ける。
その電話での会話から、少しずつ彼の置かれている状況が判ってくる。
車の中の電話での会話で、彼の物語が展開する。

 

アイヴァンには愛する妻も子供もいる。今夜は家族で一緒にサッカーの試合を観る約束だった。
そして明日は、彼が全ての指揮を執るコンクリート流し込みの大工事が予定されていた。
それなのに、彼はそれらのすべてを投げ捨ててある場所に向かって車を走らせている。
一体彼はどこに向かおうとしてるのか?

 

実は、アイヴァンはただ一度の出張中での不倫行為で、相手のベッサンを妊娠させてしまっていたのだ。
そして出産予定日までは日があった今夜、ベッサンから破水したとの連絡が入ったのだ。
アイヴァンはこの責任を取らなければならないと、家族との約束も大事な仕事も放り出して、ベッサンの入院する病院へ向かっているのだ。

 

これはもう脚本勝負の映画である。
脚本はスティーブン・ナイト監督自身で、彼は「イースタン・プロミス」の脚本も書いている。
その脚本を支えるのはトム・ハーディの表情の演技である。
脚本、トム・ハーディ、そのどちらもが巧みで、映画として上手くいっていた。

 

ベネッサからは、赤ちゃんの様子が大変なの、いつ頃来てくれるの、と電話が入る。
妻には、今夜は帰れない、実は不倫で妊娠させた子が生まれそうなのだ、と告白する。
妻からは錯乱した怒りの電話が入る(そりゃ、そうだろ)。
会社の部下には、明日俺はいないからお前が指揮を執ってくれと頼む。
そんなぁ、俺じゃ無理っすよ。いや、お前ならできる、頑張ってくれ。

 

アイヴァンが責任感の強い善人なのか、それとも、ただ一時の義務感に突き動かされているだけなのか、単純には決められないようになっている。
観ている者にも簡単には彼に肩入れはできないようになっている。

 

ベネッサのもとに駆けつけようとしているのに、彼女に向かって、愛してはいない、ただ責任を取るだけだ、と言い放つ。
裏切っておきながら妻には、不倫相手を愛してはいない、明日ゆっくり話そう、と、勝手に打開を求めている。

 

対向車のライトが流れすぎ、社内の電話の会話は刻一刻と深刻さを増していく。
ついには、アイヴァンは、妻からは、もうあなたの家はないと、離婚を宣言される。
会社からはクビを宣告される。
アイヴァンが車を運転している間に、彼の人生は大きく変わってしまったのだ。
さあ、この車がたどり着く先のアイヴァンの人生はどうなるのだろう?

 

最後近く、父の浮気を知っても電話で励ます息子が健気。好い息子だ。
ちなみに息子役は、声だけの出演だが、トム・ホランドとのこと。へぇ~。
映画の最後、電話口から赤ちゃんの泣き声が聞こえる。

 

ものすごく実験的な映画と言える。
退屈することはなく、いったいこの会話劇はどうなるのだ?と観る人をつなぎ止める。
でも、やっぱり観る人を選ぶ映画かな・・・?

 

 

「ライダーズ・オブ・ジャスティス」 (2020年) 無双ミケルセンのバイオレンス復讐劇

2020年 デンマーク 117分
監督:アナス・トーマス・イェンセン
出演:マッツ・ミケルセン

復讐アクション。 ★★★

 

アフガニスタンで戦闘任務に就いていたマークス(マッツ・ミケルセン)は、妻の死亡連絡を受けて帰国する。
それは列車事故だったのだ.
おお、こんな事故に遭うとは、愛する妻はなんて運が悪かったのだろう。俺は悲しいよ。

 

とそこに、数学者だと名乗るオットーが訪ねてくる。
妻と同じ列車に乗っていたが助かったオットーは統計学の専門家で、観察力も優れている。
事故直前の不審な乗客のことも覚えていた。
そして彼は、あれは偶然の事故ではなく、仕組まれた事故だったのだ、とマークスに告げる。えっ、なんだって?!

 

オットーは”ライダーズ・オブ・ジャスティス”という組織があの事故を企んだのだ、と言う。
彼は友人の数学者や凄腕ハッカーと協力して、ある事件の重要証人を殺すために列車事故を起こしたのだと結論づけたのだ。

 

あの事故は偶然に起きたのではなく、あの組織が意図的に起こしたものなのです。
奥さんはその巻き添えを食ったのです。
それを聞かされたマークスは怒りに震える。
おのれ、この事故を起こした奴らに復讐するぞっ!

 

ということで、ものすごい戦闘スキルを持った主人公が妻の復讐を果たそうとするバイオレンス・アクションもの。
といってしまえば簡単なのだが、この映画、いささかひねくれている。
登場人物たちがどこかおかしいのだ。真面目なのだが、どこかおかしいのだ。

 

マッツ・ミケルセンといえば、善悪の役にかかわらず知的な雰囲気を漂わせていることが多かった。
しかし本作のミケルセンは直情径行そのもの。
爆発する怒りにまかせて敵を問答無用にたたきのめしていく。
おいおい、待ってくれ、それは誤解だよ。うるさい、何を言うかっ! 
マークスは聞く耳を持たない。ブレーキの外れた暴走自動車!

 

そしてオットーとその仲間はまったくのオタクそのもの。
4人とも実生活では役に立たないようなことのエキスパートばかり。
世間からは馬鹿にされているような感じなのだが、当の本人たちはそれこそ一生懸命なのだ。

 

彼らはそのスキルを活かして次々に敵の情報を集めてくる。
その情報をもとに、マークスが敵地に乗り込んでは大暴れ。
チンピラを捕まえてボコボコにして、その兄貴分を探り出す。

 

そうして一大ギャング団の末端組織から次第に大元へと迫っていく。お前に命令を出している奴はどこにいる?
おお、無双野郎のバイオレンス復讐ものだな。
・・・ところが・・・。

 

(以下、ネタバレ)

 

えっ、あの情報は間違っていた?
すべてが終わった後で、驚きの事実が発覚する。えっ、あれ、違ったの?
じゃあ、列車事故って、本当に・・・。

 

結局一番割を食ったのはマークスに全滅させられてしまったギャング団(笑)。
俺たちに何の恨みがあったんだ? 俺たちがあんたの奥さんに何をしたって言うんだ?
といわれても、今更どうしようもないなあ。ごめんね、勘違いしていたんだ・・・。

 

愛妻の復讐劇のようで、実はアクション付きブラックコメディだった。
そして喜劇のようで、運命論にも通じる物語だった。へ?

 

冒頭とラストに、青い色の子供用自転車をめぐるエピソードが置かれている。
映画の本筋とは関係ないのだが、ある偶然が連鎖していく様を、ユーモラスに、少し皮肉に描いていて面白かった。
そう、すべて偶然の産物だったんだよね。

 

 

「アラベスク」 (1966年) お洒落、コミカル、サスペンス

1966年 アメリカ 105分
監督:スタンリー・ドーネン
出演:グレゴリー・ペック、 ソフィア・ローレン

お洒落なサスペンスもの。 ★★☆

 

スタンリー・ドーネン監督と言えば、オードリー・ヘップバーンの「シャレード」、「いつも二人で」など、ウイットに富んだお洒落な感覚の映画を撮っている。
今作もサスペンスものだが、上品なユーモア感覚をまとっている。

 

冒頭から、古代象形文字が書かれた小紙片を、悪人が殺人をして奪う。
さあ、この謎の文章をめぐって騒動が起きるぞ、と、順調な滑り出し。
グレゴリー・ペック扮するポロックは古代言語学者で、この文書の解読のために騒動に巻き込まれていく。

 

ポロックは某国首相に頼まれて、悪役大富豪の企みを探るためにその邸宅に滞在することに。
するとあらわれたのが悪役大富豪の情婦のようなヤスミン(ソフィア・ローレン)。
彼女はポロックの命が危ないといって助けてくれようとする。
いったい、彼女は何者? 本当に味方なのか? それとも・・・

 

映画を彩っているのは、なんといってもソフィア・ローレンの個性的で派手な顔立ちと華やかな衣装。
彼女が画面にあらわれるだけで豪華となる。華があるなあ。

 

スタンリー・ドーネン監督なので、ときに色っぽくコミカルな場面を入れてくる。
浴室に隠れたポロックをかばうために、シャワーを浴びるふりをして入ってくるヤスミン。
カーテンの外にいる悪役大富豪にバレないように、ポロックの目の前でシャワーを浴びるヤスミン。
う~む、グレゴリー・ペックが羨ましいなあ。

 

必死に敵の追っ手から逃げたり、それでも捕まってしまったり。
あまりシビアではない(苦笑)アクションが繰り広げられる。
人が殺されたりしていても、どこまでもお洒落、どこか女性向け感覚。
それがドーネン監督の持ち味。

 

謎の女性ヤスミンの正体は? というお約束の展開もあって、楽しませてくれる。
深刻なことはまったくありません。
少しレトロな感覚のサスペンスものを休日の昼下がりにでも。

 

しかし、大きな不満が一つ。
無事に事件は解決していくのだが、あの象形文字の謎めいた文書って、あんなものだったの?

 

「流浪の月」 (2022年) 誰にも理解されなくても、それでも

2022年 日本 150分
監督:李相日
出演:広瀬すず、 松坂桃李

彷徨い続ける愛。 ★★★★

 

ある犯罪の加害者と被害者とされた者が、世間からの冷たい無理解のなかで、それでも支えあう。
原作は本屋大賞を受賞した凪良ゆうの同名小説(未読)。

 

雨の公園で濡れていた10歳の少女・更紗に、大学生だった文(松坂桃李)が傘をさしかける。
文は、家に帰ろうとしない更紗を自宅に連れて帰り、二人はそのまま2カ月を一緒に暮らす。
やがて文は更紗を幼女誘拐したということで逮捕され、二人は引き離されてしまう。

 

15年後、ロリコン者による誘拐の被害女児という烙印を世間に押された更紗(広瀬すず)は、ひっそりと暮らしていた。
そんなある日、彼女が古い建物の2階にある喫茶店に入ると、そこに文がいた。
互いに何も言わずに文の淹れてくれたコーヒーを飲む更紗。

 

広瀬すずは映画「海街diary」、そして「ちはやふる」で観たことがあった。
可愛くて天真爛漫で、少女漫画のヒロインにぴったりの女優さんだなと思っていた。
今作では過去の陰を負ったヒロインで、人物造形の幅が拡がっているようだった。

 

松坂桃李については、もうなにも言うことはない。
孤狼の血2」のすさまじい暴力から、「空白」の気弱さまで、その演技の幅は広い。
今作の無口で、すべてのことに耐えているような静寂さも好かった。

 

さて。静かに再会した二人だったが、今はそれぞれの相手がいた。
更紗には、時に無理解な同棲相手(横浜流星)がおり、文にはやさしく慕う彼女(多部未華子)がいたのだ。
しかし今、二人は真に支えあう相手に再会したのだった。

 

映像が美しい。
柔らかい日差しの差し込む窓、揺れるカーテン。そして仄暗い影を落とす喫茶店

 

二人が再会したことをかぎつけたマスコミは、再び過去の事件を蒸し返し、二人を執拗に報道する。
文の店には心ない落書きが殴り書きされる。
このあたりは、たとえば映画「望み」などでも観ることができたマスコミ報道の残酷さを感じさせる。
更紗の同棲相手は怒り狂い、文の彼女は泣き崩れる。
それでも更紗と文は、互いを他には代えられない相手として求め合ったのだ。

 

事件の加害者と被害者が、その後に相手を必要とする映画としては「さよなら渓谷」があった。
必要とした理由は今作とはまったく逆で、罪を問うためと贖罪のためだったが、それでも互いに相手の存在を必要とする生き様を描いていた。
(真木ようこが好演。お勧め映画です。)

 

閑話休題。若干の不満を。
観ている者は、2人がどこまでも純愛だったことを受け入れて物語を観ている。
更紗が幼い日の性的なトラウマを抱えていることは物語の基調として明かされていた。
一方の文がプラトニックに接していた理由も、ラスト近くで衝撃的に明かされる。

 

(以下、ネタバレにちかづきます)

 

そうだったのか、二人は精神的障害者と肉体的障害者だったのか。
確かに、文は冒頭近くで「死んでも知られたくない秘密がある」と言っていた。このことだったのか。
しかし、文に関しては、あまりに明確な肉体的理由はない方が好かった気がする。
文も何らかの精神的障害者だった方が深みが増したような気がするのだが、どうだろうか。

 

ラストシーン、手をつないで二人は横たわっている。更紗が「月のように流れていけばいいよ」と言う。
タイトルが見事にかちっとはまった瞬間だった。

 

世間の目で見れば二人は元犯罪者とその被害者。
そのレッテルを貼られて二人とも世間からはじき出されている。
しかし、二人はそれぞれが抱えている特別な不幸を互いに支え合うことができたのだ。

 

そうすることによって二人は生きつづけていくことができるのだろう、と思わせるラストだった。
好い映画だった。

 

「ホリック」 (2022年) 極彩色ファンタジー

2022年 日本 110分
監督:蜷川実花
出演:神木隆之介、 柴咲コウ、 玉城ティナ、 松村北斗

極彩色ファンタジー。 ★★

 

原作は同名のコミックとのこと(未読)。
幻想ファンタジー的な物語だが、これを極彩色監督の蜷川実花が映画化した。
ビジュアルに凝った映画になっているのだろうなとの期待で鑑賞。

 

人の心の闇に寄り憑く“アヤカシ”が見えてしまう男子高校生の君尋(キミヒロ 神木隆之介)。
その(余分な)能力を嫌っている彼は、ある日、一匹の蝶に導かれて不思議な“ミセ”にたどり着く。
そこはどんな願いでもかなえてくれるミセだった。

 

ミセの内部はきらびやかで、現実離れした人々が蠢いている感じ。
そのミセの女主人の侑子に柴咲コウが扮する。
侑子は、どんな人のどんな願いでもかなえる代わりに、その対価としてその人の一番大切なものを差し出させる。
君尋は言われるままに侑子のもとでミセを手伝うことになり、様々な悩みを抱えた人たちと出会う。

 

この、願いをかなえるためには対価が要る、というのは物語の大きなポイントなのだが、残念なことに、それはあまり活かされていなかった。
君尋の悩み、そして彼の一番大切なものが、まったくかみ合っていなかった。

 

この映画の主人公は君尋なのだが、画面を占領していたのはやはり侑子の方。
侑子は登場するたびに、華やかで妖しげな異なる衣装で楽しませてくれる。なんでも16種類の衣装をまとったとのこと。
この感督のこだわりの美意識は凄いものだ。

 

ということで柴咲コウは好かったのだが、敵役の女郎蜘蛛役に扮した吉岡志保がミス・キャストだった。
可愛すぎて、まったくおどろおどろしくない。
ここはもっと不気味な雰囲気も抱えている美女(菜々緖あたり?)に演じて欲しかった。

 

蜷川実花らしい色彩美が素晴らしい映画だった。
それがこの映画のすべてといってもいいほど。
おどろおどろしく幻想的な物語も、その色彩美を出すために用意されたようなもの。

 

逆に言えば、それを除けばあとはどうということはない、ということにもなる。
とにかく蜷川実花の色彩美を楽しめればそれだけで好い、という人に。