あきりんの映画生活

映画鑑賞だけのブログです。★★★★が満点評価ですが、ときに思い入れ加算があります。約2000本の映画について載せていますので、お目当ての作品を検索で探してください。監督名、主演俳優名でも検索できます。

「ワイルド・ロード」 (2022年) 撃たれてしまった、よし、長距離バスで逃げよう・・・

2022年 97分 アメリカ 
監督:アンドリュー・ベアード
出演:コルソン・ベイカー、 ケビン・ベーコン

逃避行サスペンス。 ★★☆

 

組織の金と麻薬を盗んだフレディ(コルソン・ベイカー)は、腹部に被弾しながらも長距離バスに乗り込む。
これまで駄目な父親だった、せめて娘リリーにこの金を渡したいぞ。
しかし、冷酷な組織の女ボスのヴィックが追手を差し向けてくるぞ。

 

という設定で、映画はほとんど全編がフレディの乗り込んだ長距離バス車内である。
瀕死のフレディはいろいろな人に電話をかけ逃げ延びる算段を考える。
さらに乗り合わせた乗客たちとの交流、駆け引き、騙し合いなどが描かれていく。

 

娘と一緒に別れていった元妻は看護師。
電話をした当初は、もう私たちにかまわないでっ!、とけんもほろろだったのだが、傷ついていることを伝えると手当てをしてあげると言ってくれる。
人目に付かないように病院の駐車場にきてちょうだい、何とかするわ。

 

実は妻を棄ててつきあっていたのが、今はフレディを怒り心頭で追ってくる女ボスのヴィックだったのだ。
フレディよ、身から出た錆だぜ。元奥さんにどの面下げて助けてもらうんだ。

 

こうしているあいだにもフレディの出血は続き、意識は時にもうろうとしてくる。
前の席に座っている少女が携帯を貸してくれと接触してきたり、途中から乗り込んできたケースワーカーだという(怪しげな)男が話しかけてきたり。
(こんなに血を流してどう見てもまともじゃない状態の客がいるのに平然としているバスの運転手もどうかとは思うが・・・)

 

万策尽きたフレディは永年不仲だった父(ケビン・ベーコン)に助けを求める。
この父親がまたまたクソ親父。この父だったので、こんな息子になったのだな。
こんな父親の他に頼れる人はいないのかよ。なんという人生だ。

 

そして長距離バスは終点に着く。
そこにはヴィックに率いられた組織の一団が待ち構えていて・・・。

 

おそらく低予算で作られた、これぞB級映画!といった感じの作品だった。
主人公は見た目も生き方もチンピラの典型といった感じで、(良識人である私には)感情移入なんかこれっぽっちもできそうにない奴。

 

だからこの主人公、どうなるのだろうと冷静な目で観ていたのだが、脚本が好いせいか、意外に飽きさせない。
これ、期待低めで観始めたせいもあって、なかなかに面白かった。
観てよかったなあ、とまでは言いませんが、時間の無駄ではありませんでした。

 

 

 

「アパートの鍵貸します」 (1960年) アメリカにラブホはないんだ・・・!

1960年 アメリカ 125分 
監督:ビリー・ワイルダー
出演:ジャック・レモン、 シャーリー・マクレーン

人情コメディ。 ★★★☆

 

ビリー・ワイルダージャック・レモンシャーリー・マクレーンと組んだ傑作人情映画。
彼は同じ顔合わせで、これも傑作の「あなただけ今晩わ」を3年後に撮っている。

 

有名な作品なのであらすじは大方の人は知っていると思う。
上司へのゴマスリのために、重役たちの浮気密会場所として自分のアパートを提供している独身もののバクスタージャック・レモン)が主人公。
しかし、彼が秘かに思いを寄せていたエレベーターガールのフラン(シャーリー・マクレーン)が部長の愛人と知り、愕然とするといったもの。

 

そのあたりの見せ方が上手い。
観客はフランが部長の愛人であることを画面から知らされているわけだが、それではバクスターがどういうことからそれを知るのだろう、と興味津々で展開を観ることになる。
いささかコメディタッチの騒動を交えたりして展開にも緩急を付けている。

 

小道具の使い方も上手い。
フランが持っていたコンパクトの鏡の割れ目や、茹でたパスタの湯切りに使うテニスラケット、バクスターの部屋の鍵とお偉いさん専用食堂の鍵、など。
それに、最後に銃声と思わせるシャンパンのコルク抜きの音も、やるねえ。

 

ジャック・レモン演じるバクスターは善人なのだが、出世のためには情けない役割を引き受けることもいとわないといった俗物性も持っている。
そのあたりが等身大の人物造形になっていた。

 

ショート・カットのマクレーンは可愛い。この映画の時は25歳ぐらい。
先日観た「あの日の指輪を待つきみへ」の時は75歳ぐらい。こちらの映画では少し醒めたような役柄だったが、どこか可愛らしさは残っていた。

 

他の登場人物達も好い感じである。
バクスターの部屋を密会場所として利用している5人のお偉いさん達も、(この時代だからか)不倫にそれほどの罪悪感はなさそう。
それにバクスターの隣の部屋の医師夫妻が好いアクセントになっていた。

 

言ってみれば上役の愛人との恋物語ということになるのだが、重いところはなく、全体は洒落た雰囲気となっている。
妻と離婚してフランと本気で結婚しようとした部長は、結局一人ぼっちになってしまった。ちょっとかわいそうだけれど、身から出たさび?

 

ワイルダーはこの作品でアカデミー監督賞を獲っています。

 

「あの日の指輪を待つきみへ」 (2007年) お前、わがまま過ぎるのではないかい?

2007年 アメリカ 
監督:リチャード・アッテンボロー
出演:シャーリー・マクレーン、 クリストファー・プラマー、 ミーシャ・バートン

運命に流される恋愛物語。  ★★☆

 

描かれるのは、第二次世界大戦がはじまる1941年と、50年後の1991年。
二つの時代を行き来しながら物語が進む。
ひとりの(頑なな)女性と、彼女をそれぞれに愛した3人の(純情な)男性たちの物語。

 

冒頭は1991年の葬儀場面。
エセル(シャーリー・マクレーン)の長年連れ添った夫チャックの葬儀だったのだが、何故か彼女は醒めた雰囲気だったのだ。
夫婦の長年の親友だったジャック(クリストファー・ファーマー)が慰めるのだが、やはりエセルは素っ気ない。
どうして?

 

そんなエセルのもとに、アイルランドに住む青年からの電話が入る。
親切な青年は、ベルファストの丘で彼女の名が刻まれた指輪を見つけましたよ、と告げる。
はて、その指輪は・・・?
何も語ろうとしないエセル。そこで娘マリーはジャックに尋ねるのだが、彼もまた何も語ろうとはしなかった。

 

時代は50年前の1941年にさかのぼる。
若く美しいエセル(ミーシャ・バートン)は3人の青年、チャック、ジャック、テディと青春を謳歌していた。
3人はそれぞれにエセルに恋をしていたのだが、彼女はテディと将来を約したのだ。そんな二人を祝福するチャックとジャック。

 

この若い頃のエセルを演じるミーシャ・バートンが本当に華やか。
調べてみると、子役として「ノッティングヒルの恋人」や「シックスセンス」に出ていたとのこと。
しかしこの映画に出た後はいろいろと問題を起こすお騒がせ女優でもあったようだ。
なんか残念だな。

 

さて。戦争が始まり、3人の青年はそれぞれに出征する。
そしてテディが搭乗していた爆撃機アイルランドで墜落し、彼は亡くなってしまう。エセルの名前を彫った指輪と共に・・・。
しかし戦地に赴く前にテディは、親友のジャックとチャックと一つの約束を交わしていたのだ。

 

巨匠と言われたアッテンボロー監督の遺作である。
50年の時をはさんで、一つの指輪にまつわる男女の運命を描いていた。
そこに爆撃機が墜落した現場に居合わせたアイルランドの青年の思いも絡んでくる。
そして1990年代始めのアイルランドでのIRA組織によるテロ行動も絡んでくる。

 

実はテディは、もし自分が戦死したらチャックにエセルと結婚してくれるように頼んでいたのだ。ジャックもそれに協力してくれ、と。
その約束を守ってエセルはチャックとの穏やかな結婚生活を送ってきたのだった。
しかしエセルは・・・。

 

シャーリー・マクレーンの、愛敬がある顔立ちなのにどこかで醒めてしまっている雰囲気がよく出ていた。
初老のクリストファー・プラマーはダンディおじさん。
ずっとエセルを慕いながら他の女性との遍歴をたどってきた。抑えた恋心が切ないぞ。

 

だから、こうして3人の男性の純粋な恋心に支えられたエセルの思いは、どこか自己チューでわがままなものに思えてしまった(汗)。
そりゃあ、最愛の人を失った彼女の悲しみも判るが、だからといって残された2人の男性に甘えすぎだったのではないかい。

 

この映画の前に観た「エイジ・オブ・イノセンス」の女性の恋心と、思わず比べてしまったぞ。

 

「エイジ・オブ・イノセンス 汚れなき情事」 (1993年) 貴方を愛しているから諦めるの

1993年 アメリカ 
監督:マーティン・スコセッシ
出演:ダニエル・デイ・ルイス、 ミシェル・ファイファー、 ウィノナ・ライダー

純愛悲恋もの。 ★★☆

 

19世紀末のニューヨークの社交界を舞台に、許されることのない恋に落ちた男女の物語。
タイトル通りにどこまでも禁欲的で、静かに恋心を溜めていく。
上品で格調が高い物語?

 

弁護士のニューランド(ダニエル・デイ・ルイス)は、メイ(ウィノナ・ライダー)との婚約を皆に披露して祝福されていた。
そんな折に、夫から逃れてヨーロッパから帰国してきたエレン・オレンスカ伯爵夫人(ミシェル・ファイファー)があらわれる。
エレンはニューランドの幼なじみだったが、その自由な考え方にニューランドは惹かれていく。
しかし、彼には一途に愛してくれているメイ(メイとエレンも親戚同士)がいるぞ。どうなる?

 

ニューランド役のダニエル・デイ・ルイスはいかにも上品で貴族然とした雰囲気を醸し出していた。
お相手のミシェル・ファイファーは少し険のある美女。
どこか思い詰めたような怖さを感じさせる。触れると火傷しそうな、そんな美女。
一方のウィノナ・ライダーは、いかにも上流階級の中で生きてきた無垢の女性の雰囲気。
しかし、実は夫の秘めた恋心にも気づき、それを巧みに制御していくのだ。
この3人の恋心が絡み合う。

 

さて、アメリカへ戻ってきたエレンは伯爵との離婚を望んでいたのだが、外聞をはばかり醜聞を嫌う一族がそれを阻止する。
夫を持つエレン、結婚したばかりのニューランド。互いに惹かれ合いながらも二人は見つめ合うことしかできないのだ。

 

あの時代のアメリカの社交界がこんな雰囲気とは知らなかった。
豪華な衣装、きらびやかな装飾と調度品の屋敷。そこに集う上流階級の人たち。
サロンといい、夕食会といい、まるでヨーロッパのよう。
この時代に別の荒野では西部劇がくり広げられていたとは信じられないぐらい。

 

ニューランドの母親役でジェラルディン・チャップリンが出ていた。
ドクトル・ジバゴ」で初々しい役をやってから30年近くが経って、さすがに初老の雰囲気となっていたが、やはりきれいだった。
音楽はバーンスタイン。こういった格調高い映画には適役なのだろう。

 

ニューランドはメイと結婚する。表面上はおだやかで満ち足りた生活が続いていく。
エレンもニューランドを避けるようにニューヨークからボストンへ転居していく。
しかし、それでもニューランドはエレンへの思いを棄てきれない。そして、夫となったニューランドが今もエレンを求めていることをメイは知っていたのだ。

 

結ばれることのないニューランドとエレンも辛いが、夫を愛しているメイも辛い。
そしてメイは自分の妊娠を夫よりも先にエレンに告げる。
それを聞いたエレンはすべての思いを断ち切ってヨーロッパへ帰国していく。
それからニューランドとエレンが会うことはなかったのだ・・・。

 

(以下、最後の場面のネタバレ)

 

30年の月日が流れる。ニューランドとのあいだに子どもを残してメイは亡くなっていく。
初老となったニューランドに、息子がエレン叔母さんの居所が判ったと告げる。
エレンの家を訪ねるニューランド。
一度は玄関への石段を上がり始めたニューランドだったが、途中で踵を返して去って行く・・・。

 

メイは必死に自分の幸せを守り通したわけだ。
そしてそのメイが亡くなったときには、ニューランドには取り戻せない過去だけが残っていたのだ。
精神的な不倫物語とでもいった、静かな悲恋物語だった。

 

「ワイルド・スピード MEGA MAX」 (2011年) 禿げマッチョ対決、そして禿げマッチョ共闘 

2011年 アメリカ 130分 
監督:ジャスティン・リン
出演:ヴィン・ディーゼル、 ポール・ウォーカー、 ドウェイン・ジョンソン、 ガル・ガドット

シリーズ第5弾。 ★★★

 

この”ワイ・スピ”シリーズ、当初は、どうせ車好きの暴走ものだろうとたかをくくっていた。
ところがふとした時に第7作の「スカイ・アクション」を観たところ、その面白さに感嘆した。
馬鹿にしていた、ごめんなさい。
そこであらためてこのシリーズを見直したのだった。

 

このシリーズが大化けして面白くなったのは第4作の「MAX」からだろうと思っている。
今作は第5作で、舞台はリオ・デ・ジャネイロ
ガル・ガドットが扮するジゼルは前作から登場していたが、ドウェイ・ジョンソン扮するホブス捜査官は今作から登場する。
ヴィン・ディーゼルとの禿げマッチョ対決だぜ。

 

今やお尋ね者になっているドミニク(ヴィン・ディーゼル)や彼の妹ミア、ミアの恋人ブライアン(ポール・ウォーカー)はリオに逃げてくる。
そこでまずは金を稼ごうと、列車で輸送中の超高級車を盗もうとする。
へぇ、こんな風にして車を盗んでしまうんだ! なるほどなあ。
この場面からして息を呑むような豪快さである。

 

そんなドミニクたちを捕らえようと、アメリカからホブス捜査官(ドゥエイン・ジョンソン)が乗りこんでくる。
完全武装で装甲車を仕立てて、ドミニクたちが潜んでいるスラム街へ乗りこんでくるぞ。
もうこのホブスさえいれば世の悪人は全員退治できるんじゃね、というぐらいの強面である。

 

ヴィン・ディーゼルとドゥエイン・ジョンソンとくれば、スキン・ヘッドの筋肉○鹿の代名詞のような二人。
当然のことながら、二人の腕っ節争いの見せ場もある。
(このシリーズ、あとになるとこの二人に加えて、もう一人の禿げマッチョのジェイソン・ステイサムも加わってくる 嬉)

 

さて本番は、リオの街を牛耳っている悪役ボスとの対決。
なにしろ1億ドルもの大金を、グルになっている警察署の金庫に隠しているような超悪者。
ドミニクたちはその大金を盗網とするのだ。どうやる?

 

もちろんこのシリーズなので、おそらくはカー・マニアが見たらよだれが出そうな車がジャンジャン登場する。
盗んだ4台のパトカーでの街中04レースをファミリーでおこなう場面もちゃんとある。
派手でお金もかけているのだけれども、出演者からしてどこまでもB級映画に徹している(これ、褒め言葉です 汗)。

 

クライマックスは、2台の車で重い大型金庫を引っ張ってのカー・チェイス
これはすごい。
道をカーブする度に振り子のように左右にぶれる大型金庫が追跡車をはね飛ばすわ、はね飛ばすわ(笑)。
どんだけリオの一般市民に迷惑をかけているんだ?(苦笑)

 

2時間越えの結構長い作品なのだが、あれよあれよと楽しめる。
ドミニクとホブスも互いを認め合っていくしね。

 

無事に大金を手にしたファミリーのその後の姿には、つい嬉しくなってしまう。
ファミリーのジゼルとハンも睦まじくなったのだが、やがて二人には6作以後に哀しい出来事が待っているのだよね。

 

あのミシェル・ロドリゲス姐さんが扮するドミニクの恋人レティは前作で亡くなっている。
登場しないのは寂しいなあと思っていたら、エンドクレジット後に顔写真が写る。
おお、これは!
ということで、次の第6作「ユーロ・ミッション」につながっていくのだね。

 

「グッバイ・クルエル・ワールド」 (2022年) 悪人だらけの大金奪い合い騒動

2022年 127分 日本 
監督:大森立嗣
出演:西島秀俊、 大森南朋、 玉城ティナ、 宮沢氷魚

お洒落サスペンスもの。 ★★★☆

 

ポスターのこの極彩色のケバケバしい感じに、まずは惹かれる。
何か突き抜けたものを見せてくれるのではないかと期待を盛り上げてくれる。

 

ラブホテルの一室ではヤクザの資金洗浄がおこなわれていた。
と、そこを5人組の強盗が襲い、1億円近い大金を奪うことに成功する。
互いに身元も明らかにしていない強盗たちは、金を山分けしてそれぞれの世界に戻っていった。
一方、金を奪われたヤクザの方は大騒ぎとなる。おのれ、金を盗ったのはどこのどいつだっ。

 

冒頭から強盗一味、ヤクザ組織が大勢出てくる。
彼らがそれぞれの事情で右往左往する。文句を言い、怒鳴り散らし、相手を怒る。
喧噪のただなかで物語がすすんでいくようで、慌ただしい。
落ち着きのないけばけばしさ、それがこの映画の雰囲気である。

 

ヤクザ組織が手なずけている現役刑事の蜂谷(大森南朋)が、職権を利用して強盗を突き止めようとする。
もう調べれば調べるほど、情けないほどにクズな奴らばっかり。
ま、そういう蜂谷もクズなのだけれどね。

 

強盗の一員の安西(西島秀俊)は今はまっとうな旅館業をしようとしている。
大人しく、うわべは普通の常識人のように見える。しかし彼は元ヤクザだったのだ。
役どころとしては、西島秀俊が元ヤクザで悪人というのはイメージ的にちょっと無理があったかな(汗)。

 

そこへいくと、彼のところにあらわれた元舎弟を演じた奥野瑛太は凄まじい迫力だった。
行き場を失い、やけくそになっているチンピラで、こんな人物とは絶対にお近づきにはなりたくないとの雰囲気を見事に演じていた。

 

ワル中の悪だったのは、強盗の一員で闇金業者の萩野(斎藤工)。
こいつは悪いよ。他の弱い奴らを踏み台にして使い捨てにして、自分一人が甘い汁を吸おうとする。
だものだから、後半で酷い目に会う。ざまあみろ。

 

この映画の華になる部分を受け持っていたのが、強盗の一員の美流(玉城ティナ)と、強盗現場になったラブホテルの従業員の大輝(宮沢氷魚)。
若い二人は、前半ではおずおずといった雰囲気だったのだが、物語が展開するにつれて腹をくくってくる。
もうこうなりゃ散弾銃ぶっ放しで、気にくわねえ奴はみんなぶっ殺してやるぜ。

 

大金を奪われるヤクザも悪党、奪う強盗一味も悪党、そしてヤクザと手を組んだ刑事も悪党。
悪党だらけの映画だった。

 

(最後の場面のネタバレ)

 

最後、どちらも満身創痍の安西と蜂谷刑事が、防波堤に腰を降ろしてサシで話し込む。
カメラが引いて海の俯瞰を映している画面に一発の銃声が鳴る。
この銃声は、どっちだ?

 

タランティーノ映画、あるいは初期のガイ・リッチー映画に影響を受けている部分があるのだろうか。
もしあるとすれば、その影響の受け方は悪くなかったと思う。

 

 

 

 

「ボーはおそれている」 (2023年) これは悪夢か妄想か

2023年 179分 アメリカ 
監督:アリ・アスター
出演:ホアキン・フェニックス

幻想譚? ★★★★

 

冒頭からボー(ホアキン・フェニックス)は不安とちょっとした失敗であたふたしている。強迫観念の塊なのだ。
うがい水を飲んでしまったぞ、おとなしく寝ようと思ったのに隣人からうるさいと文句を付けられてしまったぞ、水と一緒に飲むように言われた薬を飲んだのに水道が出ないぞ、恐ろしげな入れ墨男に追いかけられたぞ、部屋の鍵を盗られて荒らされてしまったぞ・・・。

 

と、細かく書いていたら切りがないのだが、怯え顔のホアキンあたふたぶりに観ている者も不安になってくる。
これ、現実に起こっている出来事? それともボーの妄想?
その両者の境界も曖昧なままのため、いよいよ物語は混迷していく。悪夢にどんどん引き込まれていく感じである。

 

そして、つい先ほど電話で話していた母が突然、死んでいると告げられる。えっ?
実家に帰らなけりゃ・・・。
こうしてボーの里帰り旅が始まるのだが、アパートの玄関を出るとそこはもう奇妙な世界に変容していたのだ。

 

大混乱している街中でボーは車にはねられた、親切な(?)医師一家に助けられ、親切に(?)介抱される。
この柔和な笑顔で上品で親切な医師夫婦がとてつもなく気味悪い。
このあたり、上手いなあ。

 

こんな事をしてはいられない、母が亡くなったという実家に一刻も早く帰らなければ・・・。
それなのに旅路の森の中では劇団一行と一緒になり、ボーは芝居を観ていたりもする。
急いでいるのに、なにやかやに時間がとられて刻限に遅れてしまう。気ばかりが焦る。
そう、夢のなかで約束に遅れる、そして焦れば焦るほどさらに遅れてしまう、あの感じである。

 

そしてやっと家に着いてみると、(当然のことのとして)母の葬儀はもう終わっていた。
誰もいない立派な家に呆然と倒れ込むボー。
そして実は生きていた母が現れる。えっ?

 

これまでの母との確執が振りかえさせられる。
アリ・アスター監督はとにかく家族というものにこだわっているようなのだ。

 

最後、ボーは小舟に乗って海原を漂い始める。
ああ、これは黄泉の国へ行くメタファーで終わるのかななどと安易な思いで観ていたら・・・まだまだ終わらないのだ。

 

それから、それからボーは巨大な円形プールのようなところへ引きずり出され、衆人環視のもとに最後の審判にかけられるのだ。
そしてボーの乗った小舟はついに転覆してしまい、ボーは水中に没していく。
なんということだ。

 

エンドクレジット時には転覆したボートがずっと波に揺られている映像が映る。
いつまでも落ち着かない揺れが、いつまでもどこか不安なものをかき立てていた。

 

あとに尾を引く映画だった。怪作!
監督はインタビューで「みんな、この映画を観てどん底気分になればいいな」と言ったとのこと。
確かにね。