あきりんの映画生活

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「リスボン特急」 (1972年)

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1972年 フランス 100分
監督:ジャン・ピエール・メルビル
出演:アラン・ドロン、 カトリーヌ・ドヌーヴ、 リチャード・クレンナ

フレンチ・ノワールの傑作。 ★★★★

銀行強盗の首領シモン(リチャード・クレンナ)の表の顔はナイト・クラブのオーナーで、彼の裏の顔を知らない刑事のコールマン(アラン・ドロン)とも友人だった。そのコールマンは、シモンの情婦であるカティ(カトリーヌ・ドヌーヴ)と関係を持っていた。列車で麻薬が運ばれるという情報を得たシモンとコールマンは、それぞれの計画を立てる。

現在の、矢継ぎ早のテンポの騒がしい犯罪クライムものに比べれば、どんでん返しがあるわけでもなく、一つの流れのストーリーをじっくりと見せてくれる。
それに、青みがかった映像はなんて美しいのだろうと、あらためて思ってしまう。
そう、こういう映画を観たいんだよ。

冒頭の銀行襲撃場面から惹きこまれる。
海岸通りを襲っている激しい風雨、それにうち寄せる波。これらがこれからはじまる物語の雰囲気を過不足なく伝えてくる。

タイトルの「リスボン特急」は、それほど深い意味があるわけではない。
単に一部分の舞台になるだけで、たとえばヒッチコックの「バルカン特急」のように映画全体に関わってくるものではない。
(何故、こんな邦題にしたのだろう? 原題を直訳すると「刑事」となり、あのピエトロ・ジェルミの名作とかぶったからだろうか?)

アラン・ドロンカトリーヌ・ドヌーヴの競演であるからには、二人の間のドラマを期待するのだが、それは意外なほどに淡泊に描かれる。
全体に会話がほとんどない映画なので、登場人物の仕草や表情ですべてを感じ取らなければならないのだが、ちょっと不満。
もう少しカティが二人の男の間で揺れ動くといった部分を見せて欲しかったと思うのは、私だけか?

それに、シモンとコールマンの友情の深さがわかりにくかった。
二人の友情関係を示す伏線がほとんどなかったために、最後の場面での悲劇的な、沈み込んでいくような展開と結末が、充分な余韻となりにくかった。惜しい。

しかし、それらを差し引いても、寡黙なドロンの美しさ、冷徹なドヌーヴの美しさ、哀愁の漂うパリの街風景の美しさ、それらが魅了して止まない作品。
極端な言い方をすれば、ストーリーを楽しむというよりは、映画全体の雰囲気を楽しむ、そんな映画です。

「サムライ」「仁義」と、アラン・ドロンを起用したメルヴィル監督の作品はいずれも傑作だが、残念なことに、これが遺作。