あきりんの映画生活

映画鑑賞だけのブログです。★★★★が満点評価ですが、ときに思い入れ加算があります。約2000本の映画について載せていますので、お目当ての作品を検索で探してください。監督名、主演俳優名でも検索できます。

「ザ・スパイ/ゴースト・エージェント」 (2019年)

f:id:akirin2274:20210401185237j:plain

2019年 ロシア 121分
監督:カレン・オガネシャン
出演:アレクサンドル・ペトロフ、 スベトラーナ・コドチェンコワ

スパイ・サスペンスもの。 ★★★

 

平穏な暮らしをしていた元スパイのアンドレイ(アレクサンドル・ペトロフ)は、死んだはずの父から、狙われているぞという警告メッセージを受けとる。
えっ、親父は任務中に死んだはずだったが・・・。
その警告の直後から彼は何者かの激しい攻撃にさらされる。
一体、なにが起こっているんだ? 俺はどうして狙われているんだ?

 

実は彼の父、ロダン大佐が育てたユースというスパイ組織があったのだ。
それは各国で通常の日常生活を送りながら潜んでいて、特別のパスワードによって指令をおこなうスパイ組織だった。
これがタイトルにもある”ゴースト・エージェント”であるわけだ。
しかし、ロダン大佐の死によってその組織は埋もれたままの存在となった、はずだった・・・。

 

なに、大佐が生きている? 
誰かがユースを利用しようとしている? 
各国のユースを覚醒させるそのパスワードは誰が知っている?
ということで、ロシア情報局やユースを悪用しようという組織、そしてユースの生き残りメンバーが暗闘をくり広げる。

 

ユースという組織は、日本の忍者時代劇で言えば、いわゆる”草”というやつである。
そういえば、タイトルは忘れたが、チャ-ルズ・ブロンソン主演の映画で、ロシアの隠れスパイを密かに始末しようというものがあった。
そういう組織を作ったのだが、冷戦解消で組織の存在が公になると困るということでロシア情報局が”草”を殺していく内容だった。

 

アンドレイは元ユースのメンバー、マーシャ(スベトラーナ・コドチェンコワ)に接触して、一緒に謎の事態に対処していく。
アンドレイはどこか抜けているところもあって憎めないキャラになっている。
それに比してマーシャの方は沈着冷静。よほどアンドレイより強そう(苦笑)。

 

アンドレイ役の人をどこかで観たなあと思っていたのだが、ああ、そうだ、「T-34 レジェンド・オブ・ウォー」で1台の戦車でドイツ軍の中を脱走した人だった。
甘い顔立ちで、きっと人気俳優なのだろうなあ。
相手のマーシャ役は「裏切りのサーカス」にでていた人。
美人なのだが、アングルによってものすごく老けて見えるときがあった(失礼)。

 

物語の展開には、あれ?というようなとこもある。
大体がユースのパスワードってどうなってるの? アンドレイはどうしてマーシャに接触できた?
パスワードって個々の人物用で違うの? それとも一括で機能するの?
ま、それはさておき。

 

ロダン大佐と、旧友の将軍とのやりとりはよかった。
敵に捉えられたロダン大佐を狙撃銃のスコープで確認していた将軍は、大佐の指の合図であえて大佐を狙撃する。
互いの信頼がないとできない行為である。男の友情と信頼である。渋い!

 

ちょっと甘いところもあったが、スパイものの常道である騙し合いは楽しめた。
女は怖いということも好く理解できた(苦笑)。
それに比べれば、美女に弱い男の何とかわいらしいことか。

 

「太陽は動かない」 (2020年)

f:id:akirin2274:20210330000918j:plain

2020年 日本 110分
監督:羽住英一郎
出演:藤原竜也、 竹内涼真、 ハン・ヒョジュ

産業スパイもの。 ★★★

 

芥川賞作家の吉田修一原作の映画には、「さよなら渓谷」「横道世之介」「楽園」「悪人」と好いものが多かった。
彼は純文学だけではなく、さまざまなエンタメ系の小説も書いている。
本作の原作小説は産業スパイというか、秘密エージェントというか、そんなもののアクションもの。もう完全にエンタメ小説だった。
映像にしたら派手なものになりそうな小説だったようなあ。

 

鷹野(藤原竜也)は、小さなニュース配信会社“AN通信”の社員。
しかし、その会社は違法に入手した機密情報を売買する産業スパイ組織だった。
鷹野と相棒の田岡(竹内涼真)は、そんなAN通信のすご腕エージェントだったのだ。
そして彼らの心臓には遠隔操作で爆発する爆弾が埋め込まれていた。

 

今回の彼らのミッションは、データ通信の新技術にまつわるもの。
日本や中国の商社やら、なんやかやが、その新技術の情報や材料やなんやかやをめぐって争う。
鷹野らの他にも宿敵らしい香港のエージェントや、謎の美女も登場してきて、騙し騙され。

 

とにかく鷹野らは24時間ごとに本部へ連絡を入れなければならない。
さもないと敵に捕まったとみなされて、秘密が漏洩する怖れがあるということで胸の爆弾で消されてしまうのだ。
田岡がぼやく、こんな死と隣り合わせの毎日にどんな意味があるんですか?
鷹野が吠える、今日一日を生きるだけだ。今日一日を生き延びることだけを考えるんだっ!

 

でも、どうして胸に爆弾が埋め込まれるような人生になったのだ?
ということで、激しいアクションの合間には、鷹野がこの苛酷な任務に就くことになった過去も語られる。
決して人身売買をされたりとか、強制的にだったりとかではなかったのだな。
冷酷な指令を出していると思えた上司(佐藤浩市)も、実は好い人だったではないか。
誤解していたよ、ごめんね。

 

絵空事ではあるのだが、そういう設定での緊張感を楽しむ映画。
例によって舞台口調で見得を切る藤原君はいつも通りで好かったよ。
それに、彼がかなりのアクションをもこなすことに感心した。
浸水してくる船底での田岡救出とかは、なかなかに頑張っていたものなあ。

 

コロナ禍の関係で劇場公開が延び延びになって、予告編も1年近く見せられた映画だった。
ま、無茶な設定もあるわけだが、楽しめればそれで良し、という種類の映画。

 

すでにシリーズ続編が作られているようだ。
カイジ」シリーズの後をとって、藤原君にはこのシリーズでも頑張って欲しいぞ。

 

「亜人」 (2017年)

f:id:akirin2274:20210328110907j:plain

2017年 日本 109分
監督:本広克行
出演:佐藤健、 綾野剛

不死身の人間の戦い。 ★★☆

 

原作は桜井画門のコミック。
未読だが、ご贔屓の佐藤健綾野剛のダブル主演ということでDVDで鑑賞。

 

ある日、交通事故に遭って死んでしまった医者の卵の永井(佐藤健)。
と思ったら、彼は生き返る。彼は不死の存在である”亜人”だったのだ。
国内で3例目の亜人とされた彼は国家機関に捕らえられ、非人道的な実験の材料にされる。

 

なにせ死なないのだから、腕を切り落とそうが、内蔵をえぐり出そうが、亜人はまた復活するのだ。
どんな人体実験でもできてしまう。しかも、何回でも実験できる。
でも、やはりそれは当人には非常な肉体的な痛み、苦痛をともなうものだったのだ。

 

実際に亜人のような存在の者があらわれたら、普通の人はどう考えるのだろう?
それは自分たちの存在を脅かす脅威と考えるのだろうか。
そりゃあ、喧嘩をすれば絶対に勝つだろうし、ヤクザの殴り込みでも戦争の兵隊でも、怖い相手はいなくなる。
死が宿命として待っている者には怖ろしい存在だし、少し羨ましい存在であるかもしれない。病院は要らないし、薬も無用のものとなるのかもしれないのだし。

 

まあ、それはさておき。
国家によって非道な目に遭わされていた永井を、亜人の第1号である佐藤(綾野剛)が助けに来る。
さあ、一緒に愚かな人間どもと戦おうぜ。俺たちの安全な居場所を作ろうぜ。

 

重火器で武装した佐藤は特殊公安部隊と戦う。
(日本で一番強いのは、戦いの経験のない自衛隊ではなく、この公安治安部隊だとういう佐藤の意見は面白かった)
そんな彼が国家に要求したのは、東京を亜人の住む街とせよ、ということ。
もしその要求をのまなければ、致死性の毒薬を東京にばらまいて人が住めない場所にしてやるぞ。

 

佐藤の元には2人目の亜人もいた。彼も凶暴。国家とばりばりと戦う。
彼が言う、俺は2年間も国家の酷い実験台にされていた、助け出してくれたのが佐藤さ。
でも佐藤はその苦しみを20年間も味わってきたのだぜ。
佐藤が東京にばらまくと宣言した毒薬というのは、実は20年間も佐藤を実験台として開発されたものだったのだ。
恨み骨髄だぜ。あの苦しみを味わってみるがいいぜ。

 

不死の亜人に対抗するために国家も手段を考える。
撃ち殺しても復活してしまう亜人なので、麻酔銃で眠らせてしまえばいい、そこで身動きできないように縛りあげてしまえばいい。
ということで吹き矢のような麻酔弾を一斉に撃ってくる。

 

なるほど、国家側も考えるものだ。さて、麻酔弾が当たってしまったらどうする? 
すごいよ、腕に麻酔弾が当たったら、即座にその腕を自ら切り落としてしまう。腕はまた生えてくる。
それでも対応できない事態になったら、リセット!と言いながら自ら銃で自分を撃ち抜く。また何事もなく生き返るのだよ。

 

国家テロを目論む佐藤だったが、そんなやり方に反発した永井は国家側につく。
佐藤が奪いに来る毒薬を守ろうとするのだ。
ここから亜人同士の戦いが始まる。
亜人は”幽霊”と呼ぶ自分の分身も出すことができる。幽霊同士も戦う。

 

同じ亜人役だが、佐藤健良識派の主人公なので、それなりの存在感。
俄然インパクトが強かったのは綾野剛の方。悪役だから、好き勝手に暴れ回ってくれる。
情け容赦なく国家権力をなぎ倒す。危うくなると躊躇なく自分をリセットする。
どこまでがCGなのか判らないのだが、彼のアクション演技をすっかり見直してしまった。
癖のある役柄だと活きる俳優になっている。

 

亜人同士の壮絶な戦いがクライマックスとなる。
全体の雰囲気としては「進撃の巨人」(ただし、未見、未読。単なる想像です)に似ているのではないだろうか。
人間の命の重さが手玉にとられて物語が作られている。
それによって、逆に命の重さを訴えようとしているのかもしれないのだが。

 

コミック原作だと割り切って観ましょう。
観ている間は退屈しません。でも、あとには何も残りませんでした(汗)。

 

「さびしんぼう」 (1985年)

f:id:akirin2274:20210326223200j:plain

1985年 日本 112分
監督:大林宣彦
出演:尾美としのり、 富田靖子

尾道三部作の3編目。 ★★☆

 

わざと作り物めいた映像を駆使して、どこかノスタルジーに満ちた作品を作る大林宣彦監督。
第1作の「ハウス」からファンだった。
彼のベストは、新・尾道三部作のひとつ「ふたり」だと思っている。
本作は「時をかける少女」「転校生」につづく尾道三部作の3作目。今まで未見だった。

 

寺の一人息子・ヒロキ(尾美としのり)はカメラ好きの高校生。
悪友たちと気楽な毎日を送り、ファインダー越しに隣の女子校でショパンの「別れの曲」を弾く少女・百合子(富田靖子)に片思いをしていた。
彼女を勝手に“さびしんぼう”と呼んでいたヒロキだったが、その彼の前に、白塗りの顔の少女(富田靖子の2役)があらわれる。
さびしんぼう”と名乗るその子は神出鬼没で・・・。

 

色あせた色調で坂道の多い尾道を舞台にした青春が撮られている。
映画全体の雰囲気は、尾道三部作の「時をかける少女」「転校生」とよく似ていた。
しかし、本作はどうもしっくりこなかった。
実はさびしんぼうは、高校生時代の母親だったのだが、その設定がどうもしっくり来なかったのだ。

 

ヒロユキは片思いしている百合子をさびしんぼうと勝手に名づけていた。
つまり、若い頃の母親と恋人を同じ呼び名にしているわけで、そこが何とも微妙だった。
白塗りであらわれた若い日の母親を”さびしんぼう”と呼ぶのはいいとして、恋人は別の呼び名でも好かったのではないか。

 

さびしんぼう”という言葉(大林監督の造語らしい)は、恋をする気持ちは寂しい、ということからきているとのこと。
とすると、恋をしているヒロユキ自身が”さびしんぼう”ということになってしまいそうだが、それでは上手くないのだろう。

 

どうも、若い日の母親と片思いの恋人と、両方のイメージを重ね合わせようとしたところに無理があるように思ってしまった。
で、どうも他の尾道作品ほどには情感に浸ることができなかった。残念。

 

エンドタイトルではインストルメントで曲が流れ、尾道の風景が映されていく。
情感に溢れるものだった。
DVDのおまけ映像には、映画公開時のエンドタイトル映像が付いていた。
大林監督の意向で、DVD制作の時にエンドタイトル画面が改変されたとのこと。

 

オリジナルのエンドタイトルではさびしんぼうの扮装の富田靖子が出てきて、日本語歌詞で「別れの曲」を歌っていた。
お世辞にも上手な歌ではなかった(汗 富田靖子ファンの方、ごめんなさい)。
見比べてみると、DVDのものの方がずっと好みだった。

 

裏話を読むと、富田靖子の2週間の学校休みに合わせて急遽台本を作って撮影したとのこと。
ちょっと設定に無理があったのではないかなあ。
でも、大林ファンの評価はとても高い映画です。

 

「不毛地帯」 (1976年)

f:id:akirin2274:20210324174727j:plain

1976年 日本 181分
監督:山本薩夫
出演:仲代達也、 丹波哲郎

政財界の暗部を描く社会派ドラマ。 ★★★☆

 

華麗なる一族」に続き、山本薩夫監督が山崎豊子の同名小説を映画化している。
今作も豪華俳優陣、重厚な物語で、さすがの出来映えとなっている。

 

物語は、膨大な国家予算が動く次期主力戦闘機の買い付けをめぐって、暗躍する商社と、それに癒着する政財界を描いている。
時代は昭和30年代で、ラッキード社やらグラント社やらの社名が出てくる。
実際にロッキード事件、そしてダグラス・グラマン事件というのもあったが、この映画とどちらが先立ったのだろう?
(ちなみにロッキード事件で逮捕されたのは田中角栄。この映画の総理大臣は岸信介のようだ。)

 

主人公は元関東軍参謀だった壱岐(仲代達也)。
終戦と同時にシベリヤへ抑留され、過酷な生活を体験してきた。
タイトルは、一義的にはその極寒のシベリヤを指しているわけだが、含んでいる意味としてはその抑留生活で荒れ果てた壱岐の心の有り様であろう。

 

彼は、もう二度と戦争に関わる事はしたくないと、自衛隊への誘いも頑なに拒んできた。
そんな壱岐に目をつけ特別待遇で入社させたのが近畿商事。
いやいや、君には軍事産業の担当ではなくて服飾関係を担当してもらうよ。君の希望は了承しているよ。
しかし社長(山形勤)の目論見は、もちろん次期戦闘機の獲得商戦で壱岐の判断力、交友力が有益だと見込んでいたのだ。

 

すべてのことに沈着冷静に対応する壱岐
無表情である。人間の感情を殺してしまったかのような冷たささえも感じさせて、仲代が魅せてくれる。
彼の無二の親友が、今は自衛隊幹部になっている川又(丹波哲郎)。
彼は、終戦直前に壱岐によって命を助けられた過去を持っていた。

 

次期戦闘機の売り込みは、近畿商事の推すラッキードか、それとも東京商事の推すグラマンか。
それぞれの会社が政府要人を接待し、賄賂を掴ませ、自分側に手名づけようとする。
それこそ7万円の料理接待どころではないことが、こちらも負けじとおこなわれている。

 

物語の軸となっているのが、壱岐の心の変化。
あれほど軍事産業を忌避していたのに、いつしか次期戦闘機の受注にのめり込んでいくのである。
根っからの軍人気質が壱岐には残っていたのだ。
戦争によってもたらされた壱岐の中の不毛地帯は、その戦争の武器である戦闘機の争奪戦でしか宥められなかったのだ。
それは彼を心配する妻(八千草薫)や娘(秋吉久美子)にも止められなかったのだ。

 

そんな争奪戦には対立する商社、自己の利益目的で肩入れする政治家が入り乱れる。
グラント社に肩入れしている官房長官小沢栄太郎)がまたあくどい。
敵対する人物を脅し、すかし、懐柔し、策を弄する。
対抗する壱岐が頼りにした経済企画庁長官(大滝秀二)もまた一筋縄ではいかない。
金はいくらまで用意できるかね?・・・

どちらもどちら、なのである。

 

もちろん極端に戯画化はされているのだろう。
しかし、40年以上経った現在、実際に起こっている政府高官の接待問題などを見ると、これに近いことは今もおこなわれているのだろうなと思ってしまう。

 

争奪戦は大詰めを迎えるのだが、その犠牲者も出る。
失脚した川又は壱岐との酒を酌み交わし帰っていく。その別れの時に川又は哀しい笑みを浮かべながら敬礼をする。
この場面の丹波哲郎は好かった。その後に起きることを予感させる男の切なさであった。

 

こうして映画は次期戦闘機の選択という大きな利害に群がる人々を描いていた。
しかし、この映画を作ったときは、原作はまだ連載中だったとのこと。

 

この事件が終わり近畿商事を辞めた主人公の壱岐は、次には自動車や石油産業への介入していく物語となっていたとのこと(未読)。
山崎豊子の小説は、単にロッキード事件を描いたものではなく、心に不毛地帯を抱えた壱岐という人物の生き様のドラマだったのだ。

見応えのある映画だった。

 

 

 

「父、帰る」 (2003年)

f:id:akirin2274:20210321200749j:plain

2003年 ロシア 111分
監督:アンドレイ・スビャンギンツェフ

再会した父と子のドラマ。 ★★★★

 

アンドレイ・スビャンギンツェフ監督39歳の時の第1作。
本作で、いきなりヴェネチア映画祭で金獅子賞と新人監督賞をダブル受賞している。
さて、どんなだろうか。

 

ロシアの片田舎、アンドレイとイワン兄弟は母とひっそりと暮らしていた。
そんなある日、12年前に家を出て行ったきり音信不通だった父親が帰ってきた。
寡黙な父は近寄りがたい雰囲気で、父の顔も覚えていない兄弟は途惑ってしまう。

 

そりゃあ、いきなり私が父親だよと言われても困ってしまうよなあ。
しかも、その父なる人物は親しげに接してくるどころか、どこか高圧的なのだ。
なぜ、12年間も不在だったのか、父も母も説明してくれない。なぜ、今ごろになって帰宅したのか、説明してくれない。
(観ている者にも説明はまったくないので、謎のままに物語はすすんでいく)
父親は子どもたちのことをどう思っている?

 

そして兄弟はいきなり車での小旅行に連れ出される。
えっ、何のための旅行?
相変わらず父は寡黙で、笑顔もない。時に口を開けば命令口調である。

 

兄のアンドレイは、それでもなんとか父を認めて意志疎通を取ろうと努力する。
それに引き替え弟のイワンは真っ向から父に反発する。
こんな旅行、ぜんぜん楽しくないよ。あんたなんか帰ってこなければよかったんだ。
言うことを聞こうとしないイワンを、父は雨の中で置き去りにしたりもする。

 

始めのあたりで母が登場したきりで、あとは父と兄弟の3人だけで物語はすすむ。
旅行の間に起こる出来事が綴られていく。
3人の間に、特に父とイワンの間には不穏な空気も流れて、その緊張感はすさまじい。
この旅行の目的は何なのだ? 父子の親睦とはほど遠い雰囲気だぞ。
父が目的も意味も不明な謎めいた行動をとるので、不安感も漂っている。

 

電話で奇妙な指令を受けた父は、兄弟を連れて小舟で誰も住んでいない島へ渡る。
そこには朽ちた建物があり、父は隠されていた鞄から何かを取り出したりもする。
だが、それらのことが物語にどのように関係していたのかもわからないままである。

 

おそらくそんな説明は、描きたかった事柄には不要のことだったのだろう。
ただ12年ぶりに帰ってきた父と息子達のやりとりだけを描きたかったのであって、謎めいた部分は3人の感情を際立たせるための小道具だったのだろう。

 

(以下、最後の部分に触れます)

 

ついに決定的に父に反抗したイワンは危険な櫓の上に上ってしまう。
(冒頭に、少年たちが高いところから飛び込みを競う場面が布石になっていた)
そのイワンを助けようとして、父は転落死してしまうのである。えっ!

 

秀逸なのはそれに続く場面。
父の遺体を乗せて兄弟は小舟で島から帰ってくる。
しかし2人が降りた後で遺体を乗せたままの小舟は沖に流されてしまう。
そこで父の遺体と共に小舟は海に沈んでいくのである。

 

これは何だったのだ?
見終わった後に、はっきりと言葉では説明できないような感情が激しく揺さぶられるような映画であった。
確かにすごい映画であった。

 

なお、兄アンドレイ役の少年が本作撮影終了後にロケ地だった湖で事故死している。

 

「WAR ウォー !!」 (2019年)

f:id:akirin2274:20210318213953j:plain

2019年 インド 151分
監督:シッダールト・アーナンド
出演:リティック・ローシャン、 タイガー・シュロフ、 バーニー・カプール

スパイ・アクションもの。 ★★★☆

 

インド映画も歌って踊っての楽しいラブコメディばかりではない(当たり前や)。
しかし、「踊るマハラジャ」からインド映画に入った者としては、どうしてもこのイメージは付いてくる。
そんな先入概念を覆してくれるアクション映画としては「タイガー 伝説のスパイ」があった。
おお、ハリウッドものにまったく互角の本格派やないか!

 

さて本作は、対外諜報部のトップ・エージェントのカビール(リティック・ローシャン)の突然の裏切りから始まる。
テロリストの狙撃任務に就いていた彼は、なんと指揮をしていた政府高官に銃口を向け直して、ズドン!
えっ、どうしたことだ。裏切り者のカビールを抹殺せよ!

ということで、カビールの教え子で部下だったハーリド(タイガー・シュロフ)たちが彼を追う。

 

リティック・ローシャンもタイガー・シュロフも筋肉もりもり。
鍛え上げた肉体をこれでもかと見せつけてくれる。
その二人が筋肉バトルはもとより、バイク・チェイス、銃撃戦と、次から次へとアクションを繰り広げる。
おお、後部ハッチが開いた貨物飛行機でのバトルも力が入るぜ。
(でも、みんな、どこかで見たような気がするなあ、なあ、トムよ、・・・なあんて言いっこなし)

 

言ってみれば、「ミッション・インポッシブル」に「ワイルド・スピード」と「007」を混ぜて3で割ったようなもの。
おまけに、インド映画お約束のダンス・シーンもちゃんと入る。
それに、インド映画お約束の美女(バーニー・カブール)もちゃんと登場する。
お得感満載。2時間半の長尺なので、途中で休憩タイムも入る(笑)。

 

ちなみに、主役の二人がこれでもかとキレッキレッに踊るシーンは、イタリアのアマルフィの海岸で撮られたとのこと。
ミラノからの150人を超えるダンサーを迎えての群舞だったとのこと。
すごい、お金もかけているなあ。

 

物語も現在進行形の追跡劇と、カビールとハーリドの思い出部分がミックスされて進む。
単調にならないように、うまく構成されている。
カビールはなぜ裏切った? その真意は? と謎解き要素もある。

 

(以下、ネタバレ)

 

インド映画には珍しく、登場人物のみんながハッピーな状態で終わるわけではない。
途中で、えっ、そんなぁ、この人が死んじゃうのぉ、という展開があった。
最後にも、えっ、そうだったのか、という、これまでのインド映画にはなかったような掟破りのまさかの真相があった。

 

とにかく、長さはまったく気にならない面白さでした。
それにしても、このタイトルはもう少し何とかならなかったのかねえ。