あきりんの映画生活

映画鑑賞だけのブログです。★★★★が満点評価ですが、ときに思い入れ加算があります。約2000本の映画について載せていますので、お目当ての作品を検索で探してください。監督名、主演俳優名でも検索できます。

「われらが背きし者」 (2016年)

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2016年 イギリス 107分
監督:スザンナ・ホワイト
出演:ユアン・マクレガー、 ステラン・スカルスガルト、 ナオミ・ハリス

巻き込まれスパイ・サスペンス。 ★★★

 

ロッコへと休暇旅行にやってきた大学教授ペリー夫妻(ユアン・マクレガーナオミ・ハリス)。
ひょんなことからディマ(ステラン・スカルスガルト)というロシア人と知り合うのだが、実はディマはロシア・マフィアの一員だったのだ。
やけに羽振りがいいと思ったら、マフィアの幹部だったのか。
このまま付き合っていて大丈夫かな?

 

原作はあのジョン・ル・カレ
本人自身も元MI6の職員だったというだけあって、彼の小説はリアルに重いものが多い。
登場人物たちの思惑や騙し合いも錯綜して、ときにとても判りにくい複雑なものとなっている。
その代表作が映画「裏切りのサーカス」。あれは複雑だった。

 

しかし、本作は非常に素直な筋立てとなっていた。
これ、ヒッチコック大先生の映画でもありそうな設定だぞ。

 

ディマはマフィア組織の金庫番だったのだが、その情報を手みやげにイギリスへの亡命を希望していたのだ。
このままでは俺も家族も、組織によって皆殺しにされてしまうんだ。頼む、助けてくれ。
亡命の見返りに、マフィアの裏金情報を入れたUSBをMI6に渡す、お願いだ、このUSBをMI6に届けてくれ。
ペリーはディマに頼まれてしまう。
ほら、言わんこっちゃない。マフィア騒動に巻き込まれてしまったよ。

 

ディマの家族を思う必死な気持ちにほだされて、危険を承知で協力することにしたペリー。
なんか気の好い奴だな。それに、ペリー本人よりも奥さんの方が肝が据わっているような感じもしたが・・・。

 

もちろん、ディマの動きを怪しんだロシア・マフィアはいろいろと工作をする。
ペリーたちはそのマフィアの監視の隙間を狙ってMI6とコンタクトも取らなければならない。
いつ、どこで、会えばいいんだ?
それは罠ではないだろうな? 本当に大丈夫なのだろうな?

 

ユアン・マクレガーは私のなかではあまり華のない俳優さん。
思いだすのはやはり「スター・ウォーズ」のオビ=ワン役ぐらい。
本作でも巻き込まれた事件の渦中で必死に頑張る一般教養人という役どころで、まあ、それで適役だったのかもしれない。

 

一方のロシア・マフィアのステラン・スカルスガルトはくせ者俳優で、大のお気に入り。
「マンマ・ミーア」で軽妙な気のいい初老を演じたかと思えば、ラース・フォン・トリアー監督の問題作では常連だし、「アベンジャーズ」でもちゃんと演じる。
人なつこそうな笑顔を見せたと思えば、不気味な貫禄も見せる。芸幅が広い。
本作でもマクレガーよりも印象的だったといったら、主役に失礼か?

 

マフィアの追っ手をから逃れて山中に潜むディマ一家。
しかし、こういったときに足を引っ張るのは、恋心に眼が眩んだ娘なんだよなあ。
かってのTVドラマ「24」でもジャック・バウアの(アホな)娘が父親の危険を招いていた。
ほらほら、今作でもまたまた言わんこっちゃない。
恋人(本当はロシア・マフィアの一員)に電話なんかするから、見つかってしまったじゃないか・・・。

 

なかなかディマの入国を認めないMI6の職員スタンレーが腹立たしい。
しかし、彼も組織の一員だから、自分の一存では便宜を図ることも出来なかったのだろうな。
事件の最後近く、料理をしているスタンレーが、彼も好い奴だったんだと思わせる。
そんな彼が銃口から秘密メモを見つけるところがオチになっていた。

 

ル・カレ原作ものなので、もっと騙し合いが錯綜するのかと思っていたが、そんなことはなかった。
なによりも人間関係がすっきりと単純化されており、ほとんど裏がなかった。
その分だけやや単調だったが、観やすかったよ。

 

「ウルフズ・コール」 (2019年)

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2019年 フランス 115分
監督:アントナン・ボードリー
出演:フランソワ・シビル、 オマール・シー

潜水艦もの。 ★★★

 

正体不明のソナー音に翻弄される原子力潜水艦の物語。
そのソナー音によって、フランスの潜水艦はロシアに向けて核ミサイルを発射すべきか否かの選択を迫られる。
これは緊迫するぞ。

 

主人公は“黄金の耳”と呼ばれるフランス軍潜水艦の特殊分析官シャンテレッド。
視覚を持たない潜水艦にとっては、聴覚による状況分析がすべてとなる。
これが潜水艦もののキモとなる。

分析官は大変に重要な存在なのだ。

 

シャンテレッドは人並外れた聴覚でソナー音を分析していたが、ある時まるで“狼の歌”のような音を初めて聞く。
”ウルフズ・コール”と名づけられたそのソナー音に惑わされて作戦失敗をもたらしてしまったシャンテッド。

 

くそ、あの音の正体を絶対に突き止めるぞ。
そのソナー音の特定に執念を見せるシャンテレッド。
やがて彼はそれがすでにデータから削除されたロシア潜水艦の音紋だったことをつきとめる。
どうして廃棄されたはずの潜水艦が海中にいるんだ? なにかロシアの企みがある?

 

分析官は敵潜水艦の魚雷発射口が開いたかどうかを聞き分ける。
それどころか、相手の潜水艦のプロペラが4枚か5枚かまで聞き分ける。
それによって敵艦を特定したりもする。
すごいな。艦長も分析官に頼るはずだ。

 

さて、フランスも戦略型原潜を持っているわけで、その新鋭艦が任務に就く。
すると、例の”ウルフズ・コール”の潜水艦からフランスに向けて核ミサイルが発射されたという情報が入ってくる。
その核ミサイルの迎撃に失敗したフランス大統領は、戦略型原潜にロシアに向けて核ミサイルを発射しろとの命令を下す。
なに、いよいよ核戦争が勃発するのか?

 

核ミサイル発射指令を受けた潜水艦の映画というと、「クリムゾン・タイド」が思い浮かぶ。
母国を救うために一刻も早く発射ボタンを押すべきか、もし情報が誤っていたら大変なことになる、なんとかしてもう一度確認するべきか。
あの映画も、核ミサイルの発射をめぐって艦長たちが苦悩する物語だった。

 

とにかく潜水艦は密閉されて、外の世界からは隔絶されている。
その状況下で世界の運命を左右する決断をしなければならない。
これが緊張感を盛り上げてくれる。

 

(以下、ネタバレ)

 

実は、”ウルフズ・コール”の潜水艦はロシアから中東のテロ組織に売却されていたのだった。
そしてテロ組織は核を搭載していない普通のミサイルを撃って、フランスがロシアに向けて報復の核ミサイルを発射するように仕向けたのだ。

これは大変だ、なんとかして核ミサイルの発射を停めなければ。
大統領が核ミサイル発射を命じたあの艦はどこにいるのだ? 連絡をどうやって取ったらいいんだ?

 

しかし、一度大統領命令を受けた艦は、以後の外部との通信を絶って、核ミサイルの発射準備に取りかかる。
この映画が特異だったことは、クライマックスが敵との戦いではなく、味方同士の戦いであったところ。
別の艦で追ったシャンテレッドたちは、核ミサイル発射を阻止するために自国の新鋭戦略原潜を攻撃するのだ。

 

潜水艦ものの緊迫感はよく出ていた。
主人公をソナー音分析官にしていたのも好い設定だとは思えた。
しかし、そのクライマックスの戦いが味方同士で、しかも無益な核ミサイル発射尾を阻止するためとはいえ、多くの犠牲を出していた。
ということで、必ずしもすっきりとした結末ではなかったのは、残念だった。

 

(つっこみ)
肝心の”ウルフズ・コール”艦はどうなったのだろうね?

 

 

「地獄の花園」 (2021年)

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2021年 日本 102分
監督:関和亮
出演:永野芽郁、 広瀬アリス、 菜々緒、 小池栄子

ヤンキーOL。 ★★★

 

高校生ヤンキーものというのは、コミックでも映画でも人気分野のようだ。
その世界観を大企業OL世界に持ち込んだアイディアが好かった。
原作は芸人のバカリズム。なかなかやるねえ。

 

大企業でごく普通のOL生活を送っている直子(永野芽都)。
しかしその会社では3つのヤンキー派閥がしのぎを削っていたという設定。
派閥のことなどは直子が優しく親切に解説してくれる。
この直子のモノローグがメタっぽくて楽しい。いわく、「これじゃまるでヤンキー漫画みたい」「漫画だったら私は平凡な脇役ね」

 

ヤンキーOLの3つの派閥の頭が、川栄李奈菜々緒大島美幸
JK風だったり、極悪メイクだったり、口紅はみ出しべったりの、ちび、のっぽ、でぶ(失礼)。
中では菜々緖のケバケバしさが堂に入っていて好かった。
しかし、こんなヤンキー集団が会社にいたら1日でその会社はつぶれてしまうだろうなあ。
そのあり得ないところがこの映画のミソ。

 

そんなある日に、中途採用された蘭(広瀬アイス)が入社してくる。
この蘭がめちゃ強い。直子の語りに拠れば、さあ、主人公が登場よ、というところ。
蘭はあっという間に3人の派閥ボスを倒して社内ヤンキーを統一。ヤンキー軍団のトップになってしまう。

 

すると、今度は周辺の会社のヤンキーOLたちが、次々に蘭に挑んでくる。
なるほど、この世界ではどの会社にもヤンキーOLがいるわけね。
高校生ヤンキーものでも、校内の派閥争いが決着すると次は周辺高校との権力闘争になるものね。

 

片っ端から周辺会社ヤンキーOLを倒していく蘭。
しかし、ついにとてつもなく強いヤンキーOL集団があらわれる。
その頭がミニスカートにガーター姿OLの遠藤憲一。めちゃくちゃ不自然。それを臆面もなく登場させるのがこの映画なのだよ。

 

そして、なんと、蘭はその遠藤憲一の筆頭子分にやられてしまうのだ。えっ!?
それじゃ、映画はこの後どうなるのだ?

 

感心したのはここからの展開。
物語を考えたバカリズム、なかなかやるなあ。感心。
そのバカリズムも直子の人の好い同僚として時折り顔を見せる。まったく邪魔にならない登場の仕方で悪くなかった。

 

さて、思いがけない主人公の交代で突き進む物語。

最後に登場する圧倒的なラスボス役に小池栄子
白づくめのお伽の国の白魔女風で、はじめは誰か判らなかったぐらいに好かった。

 

ヤンキーものだから、集団乱闘やタイマンの場面が頻繁に出てくる。
はっきりいってそのアクション場面は学芸会レベル。まったく迫力感はない。
まったく痛そうでもないストップモーションが入るし、殴られた相手はわざとらしくワイアで飛んでいく。
でもまあ、映画そのものがリアリティを求めてはいないのだからね。許しちゃうよ。

 

今作は何の衒いもないバカバカしさに徹していて成功していた。
あまり期待せずに観たのだが、この憂鬱なご時世にはこういう映画も好いなあ。
同じような路線では「翔んで埼玉」が思い浮かぶ。あれも傑作だったな。

 

「るろうに剣心 最終章 The Final」 (2021年)

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2021年 日本 138分
監督:大友啓史
出演:佐藤健、 新田真剣佑、 武井咲、 有村架純

ついに終わるでござるよ。 ★★★★

 

これまでのシリーズ3作は大変によく出来たチャンバラ映画だった。
コミック原作ということもあって、時代劇という少し堅苦しい概念を吹っ切ったような面白さがあった。
存分に体術を駆使した殺陣はこれまでになく斬新だった。

 

今作のキー・ワードは、「剣心の左頬に十字傷はまだ残っているか」である。
そうなのだ、あの十字傷はどうしてあるのだろう?とは誰もが(私だけ?)思っていたこと。
その由来の過去があかされ、そこからの物語が始まるのだ。

 

今回の敵は、剣心の十字傷の謎を知る雪代縁(新田真剣佑)。
彼は剣心への恐るべき復讐心で、“人誅”と称して剣心の周りの人々を不幸に陥れようとする。
愛する人を失う悲しみ、苦しみを剣心に味わせようとする。
実は雪代縁は、剣心が斬った最愛の妻・巴(有村架純)の弟だったのだ。
今は香港マフィアのボスとなった彼は、部下を引き連れて東京の街を破壊し始める。

 

これまでのシリーズの登場人物たちが次々とあらわれる。嬉しい。
(あらわれないのは藤原竜也ぐらい。残念だが、ま、当たり前か・・・)
それだけに、過去作を観ていないと、これ、誰? どんな関係の人? ということになる。
今作を楽しむためには、是非とも過去3作を見ておくことをお勧めする。

 

剣心の悲劇の過去が絡む今作は物語性もよく、アクション・シーンも見応えは充分だった。
これまで邦画の若手アクション俳優としては岡田准一が贔屓だった。
「SP」や「ザ・ファブル」でシラット風の体術を駆使したアクションに魅せられていた。
(かなり後まで、彼がジャニーズのアイドル・グループの一員だということを知らなかった 汗)
しかしこのシリーズで佐藤健を観て、すっかり彼のファンにもなってしまった。

 

さてクライマックス。
剣心が乗り込んだ敵のアジトでは大集団vs.剣心となる。
これは剣心一人ではなかなかに辛いんではないかい。
そこに瀬田宗次郎(神木隆之介)があらわれた時は、正直、ヤバッ!と思った。
彼は飄々としながらも、前作でも軽快な剣さばきでなかなかの強敵だったのだ。これは手こずるのではないか?

と思ったら、「お久しぶりです緋村さん!私もるろう人になっています」と挨拶して、ちゃっかりと味方になってくれた。
これは観ていて嬉しかった。

 

それに続いていよいよ真のクライマックス。雪代縁との一騎打ちである。
この戦いの場面には文句のつけようが無かった。満点評価である。
You tubeでは佐藤健新田真剣佑の稽古の様子を映していた。
まあ、すごい。
あの迫力あるアクション・シーンは、これだけの稽古を積み重ねた上で初めて撮れたのかと、あらためて感心させられた。

 

剣心に穏やかな日々が戻り、映画は終わっていく。
見終わってしまったか・・・。
気になるのはこれに続いて公開されるという「The Beggining」。
これだけの大団円を観てしまったら、もう今更はじまりを観なくてもいい?

 

「記憶にございません!」 (2019年)

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2019年 日本 127分
監督:三谷幸喜
出演:中井貴一、 ディーン・フジオカ、 小池栄子、 石田ゆり子

政治コメディ。 ★★★

 

史上最悪のダメ総理大臣の黒田(中井貴一)は、暴漢の投石を頭に受けて記憶喪失になってしまう。
自分は誰? あなたは誰? ここはどこ?
文字通りに「記憶にございません」状態なのだが、某総理大臣の責任逃れのお決まり答弁をうまく茶化していた。
脚本/監督の三谷幸喜も、本作ではなかなか好いではないか。

 

暴君だった権力者が急死したり、病に倒れたりして、そっくりさんがその身代わりを務めるという設定の映画は時にみる。
韓国映画「王になった男」とか、インド映画「プレーム兄貴、王になる」とか・・・。
どれも身代わりの方が本物よりも好い人、というのがお約束である。
本作は、本人自身が記憶喪失で別人のようになるところがユニークだった。

 

さて暴君だった黒田総理だが、記憶を失ってからは絵に描いたような好い人になる。
というか、人の上に立つ人は本来は、謙虚で、思慮深くて、物事への広い配慮ができなくてはならない。
それが基本であるべきなのに、記憶喪失になってからの黒田がそれをおこなうと周囲はみんなびっくりする。
ということは、今までの権力者が基本とは正反対だったってことか。

 

中井貴一はもともと善人ぽいイメージの人なので、好い人になってからに違和感はまったくなかった。
しかし、記憶を失う前の暴君時代の中井は、どうみてもむりやり感があって似合ってはいなかった。

 

3人の側近秘書が記憶を失った黒田を助けて(周囲をごまかして)、なんとか総理大臣の仕事を続けていく。
秘書頭のディーン・フジオカも好かったのだが、今作ではなんといっても小池栄子が好かった。
おどおどとしながらもすっかり好い人に変わった黒田を、凜とした感じで支えていく。

 

面白かったのは、小池栄子が黒田と並んで歩いているときに、ここでいつも総理は私のお尻を撫でました、と言って立ち止まるところ。
三谷幸喜らしい上品な下ネタである。
また小池は、無茶ぶりをする総理夫人(石田ゆり子)(このイメージは、ミーハー的に騒ぐのが大好きだった某総理夫人をモデルにしているのだろうな)の代わりに、カメラの前で珍妙なダンスをして見せたりもする。
好いねえ。

 

黒田が小学校の公民の勉強からやり直すというのは、今の政治家がどれだけ基本を忘れているかという皮肉になっていた。
それに、黒田が表面上は政治的な駆け引きをしている野党党首(吉田羊)と愛人関係にある、というのも、何か寓話のようでもあった。
妻(石田ゆり子)との関係のあたりは、あまりにも漫画的だったが、まあ、コメディだからね。

 

政治権力者を茶化した作品だが、堅苦しいことを考える必要はなかった。
いつの時代でも、虐げられた庶民は権力者を茶化して溜飲を下げるのである。
今の日本にも、こんな風に茶化される政治家が、・・・いる?
あ、あの人か!  そうか、この人もか!

 

 

「禁断の惑星」 (1956年)

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1956年 アメリカ 98分
監督:フレッド・マクロード・ウィルコック

65年前のSF映画。 ★★☆

 

1968年の「2001年宇宙の旅」はSF映画マイルストーンだと思うのだが、この映画はその10年以上前のもの。
初めて観たのだが、驚いた。
この後に続くSF映画のあらゆるものに影響を及ぼしているのではないだろうか。

 

時は23世紀。20年前に調査隊が行方不明になっている惑星に探査隊がやって来る。
するとそこには以前の調査隊の生き残りであるモービアス博士が娘のアルティアと、ただ2人だけで暮らしていた。
立派な住居設備、必要なものは何でも作ってくれるお仕事ロボットのロビー。
もちろん今の目で見ればチープなセットなのだが、当時としては斬新だったのだろうな。

 

そして博士は、20年前に他の調査員たちは地球に帰ろうとしたときに、正体不明の怪物に襲われて死んでしまった、と告げる。
えっ、怪物って? 今もこの星にいるのか?
なぜ博士だけは無事だったんだ?

 

博士はやって来た探査隊のメンバーに、私たちはこの惑星で幸せに暮らしているから、君たちも早く地球に帰りたまえ。ここにいると命の保証はないよ。
博士はなにか隠しているんじゃないだろうか?
どうも、我々を厄介払いしたいみたいだぞ。

 

お仕事ロボットのロビーの造型は、その後のSF映画ではお馴染みのものとなっていく。
ポスター写真を見てほしい。
格好いい。この映画が現在のSF映画の原点だと誰でもが思うのではないだろうか。
しかし、実写のロビーはバランスからいうとやけに足が長い。
CGもなかった時代だから、きっと着ぐるみで、中に人が入っているのだろうな。

 

白いミニスカートで無邪気にふるまうアルティア(アン・フランシス)。可愛い。
この惑星で生まれた彼女は父親以外の人間とは初めて会うのだから、禁欲生活を送ってきた隊員たちがどんな目で自分を見ているかなんて、判らない。
それをいいことにして、健康にいいからとキスを迫る隊員たち。
とんでもないセクハラである。こういう笑いを取ろうとしていたのだな。

 

さて。
着陸地点で地球と交信しようとする探査隊を、ふいに半透明の怪物が襲う。
隊員たちの原子砲(?)の集中砲火を浴びてもびくともしない。
この半透明の怪物の映像にも感心した。どうやって撮ったのだろう?
それにしても、この怪物はいったい何ものなのだ?

 

解決策を求めて隊員たちがふたたび博士の住居を訪ねると、その奥にはこの惑星の古代文明が残した広大な研究室があった。
この左右にも上下にも延々と続くような研究室の造形はすごいもの。
まるでクリストファー・ノーラン監督が作ったのではないかと思ってしまうほど。
それほどに斬新な映像であった。

 

優れた古代文明に魅せられた博士は20年間もの間、その研究をしていたのだ。
古代文明の知性は非常に高度で、博士はそれを使って自分のIQを増幅してロビーも作ることができたのだ。

 

(以下、ネタバレ)

 

あの怪物は、実は博士の潜在意識が創り出したものだったのだ。
映画では”イド”と言っていたが、ラテン語の”id”からきているのだろう。
心理学の用語で、自我や超自我をあらわす言葉のようだ。
地球に帰りたくないという博士の無意識の欲求が具現化されてしまったと捉えればよいのだろう。
よくもまあ、こんな形而上的なことを映画に取り入れようと、あの時代に考えついたなあ。

 

DVDには当時のオリジナル予告映像が入っていた。
そのオープニングを観て驚いた。
なんと、状況を説明する文字が斜めに傾いた台形状で星空を上方へ流れていく映像ではないか。
そう、「スターウォーズ」のオープニングのあの映像である。あの元ネタはこれだったのか!
やはり先駆者として確固たる位置を占める作品なのだな。

 

「ワールドエンド」 (2019年)

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2019年 ロシア 152分
監督:イゴール・バラノフ

侵略SFもの。 ★★☆

 

近未来の全世界で電力が喪失するブラック・アウトが発生する。
どうやら宇宙からの特殊な放射線照射によるものらしい。
月の陰になっていたわずかの地域だけが被害を免れ、ロシア軍特殊部隊が調査を開始する。

 

構想は雄大で、後半になると、人類の起源にまで話が及ぶ。
しかし長い。なんと2時間半越えである。
派手な銃撃戦や爆破シーンもあるのだが、展開は割とのったりとしていてキレがない。
う~ん、長いなあ(長さを感じさせない傑作映画もあるのだが・・・)

 

主な登場人物は男女二人ずつの4人。
同じ部隊にいるロシア軍兵士2人と、従軍看護師、それに取材に同行している女性記者。
彼らの過去も断片的には出てくるのだが、あまり関係ないんじゃね? 
無駄に尺が長くなっているだけだったような気が・・・。

 

しかし、繰り返しになるが構想は雄大なのだよ。
中盤でついにイドという宇宙人が登場してくる。
姿形は人間とよく似ているのだが、顔の下部を覆っていた布を取ると、おや、口がない。
どうやって食べるんだ?

 

この映画に今ひとつ感情移入しにくかったのは、主人公たちが闘う相手が同じ人間であること。
宇宙人によって奴隷にされた何億人かの人間は、もう理性も感情もなく主人公たちを襲ってくる。もちろん死など怖れない。
ロシア軍は機関銃で彼らを撃ち殺し、装甲車で轢き殺していく。
それでも彼らは次から次へと襲ってくる。
そう、宇宙人の奴隷となった彼らは(私の嫌いな)ゾンビと一緒なのである。

 

やがてイドが問う、ピラミッドを本当に人間が作ったと思っているのかね?
えっ、(やはり)ピラミッドやナスカの地上絵は人類の作ったものではなかったのか・・・。

 

(以下、ネタバレ)

 

実は、イドたちは20万年前に地球にやって来て、やがて消滅する母星から地球への移住を計画したのだ。
当時、地球を支配していたのは高度な知能の先住生命体だった。
そして彼らを駆除するために、自分たちと似たDNAの人類を創りだし、ウイルスとして地球に送りこんだのだ。
ウイルスである人類によって先住の生命体は絶滅して、その後に人類だけが繁殖したというのだ。

 

えっ、人間て、先住民を絶滅させるための人工産物だったのか。
人間てそんな存在のものだったのか・・・。

 

聖書には、神は自分たちに似せてヒトを創ったとあったが、それじゃ、神というのは・・・。
(あのエイリアン「プロメテウス」でも人間の起源は・・・という設定だったな)
宇宙人の最終計画は、人類を奴隷化して地球を手に入れること。
さあ、もうじき、移住民を載せた巨大宇宙船が到着するぞ。

 

でも、この映画は人間が作ったものだから、本来はウイルスだろうが何だろうが、人間は宇宙人と闘うのだよ。
そして、移住のために巨大宇宙船の中で冬眠していたおびただしい数の宇宙人を倒すのだよ。

 

しかし最後、たった3人だけ生き残った人間は、生まれてきた宇宙人の子どもたちにとっては”神”になる?

 

設定や狙いは独創的な部分もあってよかったのだが、どうも上手くまとまっていなかった。
もうちょっとすっきりとした構成にすれば傑作になったのかもしれないなあ。