あきりんの映画生活

映画鑑賞だけのブログです。★★★★が満点評価ですが、ときに思い入れ加算があります。約2000本の映画について載せていますので、お目当ての作品を検索で探してください。監督名、主演俳優名でも検索できます。

「アタメ ~私を縛って」 (1989年)

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1989年 スペイン 101分
監督:ペドロ・アルモドバル
出演:ビクトリア・アブリル、 アントニオ・バンデラス

変態だけれど純愛。 ★★☆

 

タイトルの”アタメ”とは、スペイン語で”縛って”ということらしい。

で、DVD発売の際には「私を縛って」の副題もつけられた
惹き文句に「スーパーH型ラブストーリー」とある。
アルモドバル監督のことだから開けっぴろげにイヤらしい。

 

精神病院から退所してきたリッキー(アントニオ・バンデラス)。
彼はかって一度寝たことがあるポルノ女優のマリーナ(ビクトリア・アブリル)に執着して、彼女の撮影現場に入りこんだり、家の鍵を盗んだり。
簡単に言ってしまえば、リッキーは究極のストーカー男である。
ついには彼女の留守宅に入りこみ、帰宅したマリーナを監禁してしまう。

 

このリッキーという男、根っからの小悪党で、手癖が悪い。
他人の車だろうがおかまいなし、勝手に解錠して平気で乗り回す。
それでいて根は純情。監禁されたマリーナがやけっぱちになって、早く犯しなさいよ、と叫ぶのに、いや、俺は君に愛して欲しいんだ、と言ってプラトニックに接する。

 

マリーナもかっては娼婦のようなこともしていたようなのだが、身持ちは意外に堅い。
撮っている映画のセクハラ監督のちょっかいにも毅然としている。
(なにせアルモドバル監督なので、きわどい台詞や仕草はいたるところで出てくる)

 

後にハリウッドで売り出すアントニオ・バンデラスは、このとき 30 歳ぐらい。若い。
この頃にはスペインではすでにトップ スターだったようで、目力もあって華を感じさせる。
ヒロイン役のビクトリア・アブリルもスペイン映画界ではかなり有名な女優のよう。
ベルリン国際映画祭でなんと銀熊賞を獲ったこともあるとのこと。すごいんだ。

 

そんな彼女は体当たり演技を見せてくれる。
(マリーナの入浴シーンで、子供のおもちゃが**に突進してくるところにはまいった、まいった。さすが、アルモドバル監督!)

 

最初は被害者だったマリーナだが、純情な愛一途のリッキーにしだいに愛情を覚えはじめる。
そんな馬鹿な、と思うところだが、そこが並のハリウッド・ラブコメとアルモドバル作品の違いなのだよ。
リッキーが彼女のためにチンピラと戦って傷ついてきた時、ついに彼の愛を受け入れるのだよ。

 

リッキーが外出しようとするときに、マリーナが言う、「私を縛って!」
不思議な女心。不思議な愛のかたち。

 

どの映画ででも恋物語には必ずお邪魔虫が登場してくる。
連絡が取れなくなっていた妹マリーナを心配してやってきた姉によって、二人の仲は引き裂かれる。
あ~あ、傷心の旅に出るリッキー。

 

しかし、おとぎ話のように物語は展開する。
なんだ、こりゃ?といった急展開で、めでたしめでたしのエンドとなっていく。
毒味満点のラブ・コメディでした。

 

 

「勝負(かた)をつけろ」(1961年)

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1961年 フランス 102分
監督:ジャン・ベッケル
出演:ジャン・ポール・ベルモンド、 クリスティーネ・カウフマン

フレンチ・ノワール。 ★★

 

原作者のジョゼ・ジョヴァンニは、本人もその筋の人物だったとのこと。
この映画は彼が実際に話を聞いた男の物語で、後年に彼自身が監督を務めて「ラ・スクムーン」のタイトルでリメイクしている。主役は今作と同じJ.P.ベルモンドだった。
ラ・スクムーンとは、”破門された人”と言うほどの意味らしい。

 

名うてのならず者のロッカ(ジャン・ポール・ベルモンド)。
冒頭であっという間の早撃ちを見せ、拳銃の名手ということをわからせる。
フレンチ・ノワールものの雰囲気もよく出ていて、出だしは好調だった。

 

彼は無実の罪で逮捕された親友のグザビエを救うためにマルセイユにやってくる。
グザビエを陥れた男を殺し、彼の情婦を自分の女にして店も乗っ取ってしまう。
ま、ならず者なのだよ、ロッカは。
そんな彼は店のみかじめ料を強要してきたならず者グループと争い、相手を射殺して逮捕される。
ここまでが第1幕。

 

さてグザビエと同じ刑務所に収監されたロッカ(これを狙ってわざと逮捕されたのかどうかは、よく判らなかった)。
刑務所ぐらしの様子が描かれるが、この中盤が有り体に言えば中だるみだった。
独房での意地悪な看守とのやりとりとか、雑居房での生活とか。

 

さて、グザビエにはジュヌビエーブ(クリスティーネ・カウフマン)という美しい妹がいて、時折り面会にやってくる。
彼女はロッカを愛しており、ロッカも彼女を妹のように可愛がっていた。
刑務所を出てきたら3人で一緒に暮らしましょ。

 

ここで映画は突然、地雷撤去のハラハラ・サスペンスとなる。
減刑の条件で囚人たちに不発地雷の発掘作業の募集がおこなわれ、ロッカとグザビエも参加するのだ。
作業を少しでも間違えれば地雷は爆発し、この危険な作業に従事した多くの囚人が死んでいく。
(地雷の除去作業ってあんな事をするのかと初めて知った)

 

確かに緊迫感のある場面なのだが、これ、ノワールものだったよなあ。
ここまでと違う映画のようじゃないか。
どうも物語が上手くつながっていないなあ。

 

で第2幕が終わり、最終章は出所した二人となる。
ロッカ、グザビエ、そしてジュヌヴィエーヴは3人で暮らし始め、農場を購入して平穏に暮らそうとする。
しかし購入資金が足りない。
で、グザビエは単身で組織に乗りこみ、ボスを脅して金をせしめる。
しかし、その金を奪い返しに来た組織との争いの最中に、ジュヌヴィエーヴは撃たれて死んでしまう。

 

ロッカとグザビエだけが立ち会っている寂しいジュヌビエーブの埋葬。
そこで映画は唐突にFinの文字がでて終わっていく。・・・へ?

 

実話を基にしているからなのだろうが、各エピソードがうまくつながっていなかった。
リメイク作もほとんど同じ筋立てで、似たような印象だった記憶がある。
せっかくベルモンドが出ていて、出だしは雰囲気もよかったのに、残念な作品だった。

 

「ホワイト・ストーム」 (2019年)

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2019年 香港 99分
監督:ハーマン・ヤウ
出演:アンディ・ラウ、 ルイス・クー

香港ノワールもの。 ★★★

 

邦題がどこから来たのかは判らないが、まったく内容のイメージをあらわしていない。
どこがホワイトや? どこがストームや?
原題は「掃毒2 天地対決」。前編に当たる「掃毒」は「レクイエム 最後の銃弾」という邦題だった。
しかしまったく前編との関係はなし。どこが「2」なんや?(苦笑)

 

ということで単独視聴で問題なし。
(ま、「レクイエム」も麻薬を扱った香港ノワールものというところだけは似ていた)
本作は、麻薬に絡んだ3人の男、麻薬を撲滅しようとする富豪と、麻薬王、それに刑事の物語。
(あ、そうか、麻薬=白い粉で、それがが舞い散る場面があった。邦題はそこからつけた?)

 

麻薬には手を出すなとの組織の掟を破った地蔵(ルイス・クー)は、義兄弟のユー(アンディ・ラウ」から制裁を受ける。
それは右手の指を切り落とされるというものだった。
おのれ、いつか見ていろ、この恨みは晴らしてやるぞ。

 

15年後、ユーは組織から足を洗い、株取引が成功して大富豪となっていた。
ひとり息子が麻薬に侵されて死んでしまったこともあり、ユーはその資産を武器に麻薬撲滅運動を展開する。
一方の地蔵は香港麻薬四天王のひとりとなっていた。さあ、麻薬でどんどん稼ぐぜ。
因縁のふたりが麻薬を中にして”天地対決”するわけだ。

 

アンディ・ラウはスーツをピシッと着こなし、髪型もきめている。
ダンディさが半端ではない。あくまでも正義の味方である。
地蔵役のルイス・クーは憎々しげ。
切り落とされた指の跡には精巧な人工指をつけて、非情な悪人である。
(でも、最後の方になって、指が切り落とされるきっかけとなった麻薬騒動には裏があったことが明かされる。なぜユー兄貴は俺のことを信じてくれなかったんだ・・・。)

 

言ってみれば、大筋は香港ノワールものによくあるパターン。
麻薬をめぐっての暴力抗争が次々と連鎖していく。
もちろん退屈はしないのだけれども、終盤までは、まあ、普通に観ていた。

 

目を引いたのは終盤のカー・チェイスである。ここはすごいよ。
街中を疾走するユーと地蔵の車。
追いつ追われつのまま、2台の車はなんとエスカレーターの上を走り降りて地下鉄構内になだれ込む。
そしてホームを爆走していたかと思ったら、そのまま地下鉄の線路へ。
もちろん地下鉄が走ってくる。2台の車はどうなる? ユーと地蔵はどうなる?

 

この最後の迫力で評価が上がった作品でした。

 

(ちょっとした余談)
エンドロールで歌が流れるのだが、主役の二人がデュエットしているとのこと。
へぇ~。

 

「ソボク」 (2021年)

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2021年 韓国 114分
監督:イ・ヨンジュ
出演:コン・ユ、 パク・ボゴム

不死のクローン人間。 ★★☆

 

主人公は不治の病のために余命わずかなギホン。
元情報局員である彼はソボクという青年の移送護衛を依頼される。
実はこのソボク、クローン人間で不死であった。
ソボクの移送が無事におこなえたら、ギホンよ、お前の命も助けられるようになるかもしれない、しっかりソボクを守ってくれ。

 

この不死の存在のソボクをめぐって、韓国情報員や不死を手に入れたい悪徳大富豪、それにどこかの軍隊までが争奪戦を繰り広げる。
それらの追っ手からギホンとソボクの逃走劇が始まる。

 

ギホンは基本的に組織人間。
命令を受ければ何も考えずにただその命令を実行しようとする。
一方のソボクは、自分がなぜ作られたのだろうと、自分の存在する意味を常に考えている。
人間であるギホンが機械的に行動し、クローンであるソボクの方が哲学的。人間っぽく悩む。
永遠に生きるってどういうことですか?

 

限られた命しかない人間と、永遠の命をもつクローンとの逃走劇。
この二人のバディ・ムービーのようなロード・ムービーでもある。
これまで研究室に閉じこめられていたソボクなので、逃走途中で初めて経験することがらには興味津々。
お気に入りのスニーカーを見つけたり、初めて食べるカップ麺の美味しさに喜んだり。
ギホンを慕い始めたソボクは、ギホンのことを兄さんと呼ぶようにもなっていく。

 

ソボクの身体は寝る必要もない。眠いという感覚が分からない。
そしてギホンが寝ようとするのを見て、眠るのと死ぬのとは何が違うのだ?と尋ねたりもする。
たしかに、夢を見ることを別にすれば、眠っている間は死んでいる状態と変わらない気がするよなあ。

 

3つの敵集団が代わる代わるにギホンとソボクに襲いかかってくる。
しかしソボクは急速な細胞分裂をする肉体からでる力で周囲の磁場(引力?)を操ることができたのだ。
マーベル・コミックも真っ青になるくらいの凄まじい力だよ。
その超能力で起きる事柄の絵柄は、クリストファー・ノーラン監督作を参考にしたぐらいの凄まじい力だよ。

 

やがて大団円となる。
はたして永遠の命には価値があるのか、なぜ人には死があるのか、死が待っている命にはどんな意味があるのか。
そのようなことも考えさせて映画は終わっていく。

 

最後、ソボクの台詞「兄さん、眠くなりました」は印象的だった。

 

 

「メトロポリス」 (1926年)

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1926年 ドイツ
監督:フリッツ・ラング

100年前に描かれた未来社会は。 ★★★☆

 

世界で初めてのSF映画といえば1902年の「月世界旅行」。荒唐無稽のすごい空想力の映画だった。
そしてその20年あまり後の本作は、未来都市とロボットを登場させた本格SF映画の始祖である。
もちろん無声白黒映画。
オリジナル・フィルムには欠損部分があり、今回観たDVDはその部分は黒画面として物語の解説の文字を入れていた。

 

21世紀の近未来世界が描かれている。
科学が飛躍的に発展し、資産家階級は地上で楽園のような環境の生活をしている。
その一方で、労働者階級は地下の巨大工場で黙々と単純労働を強いられている。

 

100年も前にこのようなディストピアが描かれていることに感嘆する。
二つの世界大戦の狭間の時期であるし、現実の社会情勢は不安定だったのだろう。
高層階や上空に暮らす支配層、そして低層階や地下で暮らす被支配層という構図は象徴的。
何年か前のマット・デイモンの「エリジウム」などでもその設定は応用されていた。

 

近未来都市の映像も素晴らしいものだった。
地上には超高層ビルが連なり、その間を縫うように遥か高みを鉄道が走っている。
そして地下の大工場はいたるところから水蒸気を噴き出させ、労働者たちは機械的に働き続けている。
勤務交代時に整列した労働者たちがロボットのようにエレベーターに乗り込む図は、いくつもの映画で模倣されている気がする。

 

物語は、この世界の支配者の息子が労働者の娘マリアに魅せられることから始まる。
マリアは労働者たちが一致団結して支配者層に立ち向かう運動のシンボルとなる。
支配者階級とそれに反発する労働者階級があり、その間の恋物語である。
作品としては、社会を律していく頭脳とそれを支える労働は心で繋がらねばならない、という命題に結びついていく。

 

さて。
狂気の科学者が、マリアの顔かたちを写してアンドロイドのヘルを作っていた。
このヘルは、今でいうところのAIを備えていて、そのAIが暴走し始める。

 

この映画が作られたのは、人間と同じ動きをする人形がいずれは出来るだろうと想像されていた時代である。
ちなみに、真空管によるコンピューターが登場したのは1940年代後半である。
その20年近く前にアンドロイドを登場させて、しかもAIまで考えたのだ。
すごい想像力だったわけだ。

 

このアンドロイドのヘルの姿を見れば、ああ、「スター・ウォーズ」のC-3POだ!と誰でもが思う。
ちゃんとあの映画でリスペクトされていたのだ。

 

社長は、労働者階級のシンボルのマリアを監禁しようと手をまわし、社長の息子は恋したマリアを助け出そうとする。
一方、ヘルをマリアだと思い込んだ労働者たちは、ヘルに扇動されて工場の打ち壊しを始める。
おいおい、そんなことをしたら地下社会は水没してしまうぞ。

 

繰り返しになるが、100年前の映画である。
それでこれだけの物語性と、想像力を掻き立てる映像を有している。
支配者階級と労働階級の対立という社会性のあるテーマ、それに未来都市の造形やアンドロイドの登場。
本格的SF映画の記念碑的な作品と言っていいだろう。

 

「東京リベンジャーズ」 (2020年)

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2020年 日本 120分
監督:英勉
出演:北村匠海、 吉沢亮、 今田美桜

タイムリープするヤンキーもの。 ★★☆

 

高校生ヤンキーものはどうも肌似合わず、原則的に観ないことにしている(OLヤンキーものは面白かった)。
しかし、この映画は、好みであるタイムリープが組み合わされているとのことで、観賞。
原作は同名コミックということだが未読。

 

元ヤンキーのタケミチ(北村匠海)は、27歳となった今は負け犬人生のフリーター。
ある日、彼は高校時代の恋人だったヒナタ(今田美桜)が弟と共に事故に巻き込まれて死んでしまったことを知る。
その翌日、駅のホームから転落した彼は10年前にタイムリープしていた。えっ?

 

そこは、喧嘩に負けての負け犬人生を決定づけた高校時代。
ヒナタの大人しい弟ナオトに会ったタケミチは、10年後にヒナタが喧嘩に巻き込まれて死ぬことを教える。
よしっ、二人で何とかしなくては。未来を変えなくては。

 

ヤンキー時代の北村匠海は黄色髪の、いかにも軽薄な雰囲気。
つるんでいる負け犬同士の仲間も軽薄。
この軽薄さが思慮深い私には合わないんだよ(笑)。
しかし、観ているうちに馴染んでくるな。軽薄なりにタケミチは信念も持っているし。

 

現在に戻ってきたタケミチは、あれ?お前はナオトか。生きているのか?
ほら、タケミチさんが高校時代にお前たち姉弟は死ぬって教えてくれたじゃないですか。姉を守るために自分は刑事になったのですよ。
姉が死んだのは東京卍曾のせいです。10年前に戻って東京卍曾のトップのマイキー(吉沢亮)を倒してください。

 

ヤクザも怖れるというヤンキー集団の東京卍曾。
そのトップがマイキー。彼を支えているのがNo.2のドラケン。
この二人すごいよ。高校時代のタケミチを奴隷にしていた悪のキヨマサなんか、マイキーに1発でのされてしまう。
そしてそのマイキーにタケミチは気に入られてしまう。よし、お前は友だちだ。

 

こうして、ヒナタを助けるためには東京卍会を潰さなければならないのだが、マイキーもドラケンも好い奴なんだよ。
どうして未来ではああなってしまうんだろ?
何を変えればいいんだろ?

 

基本的には高校生ヤンキーものなので、粋がった若者たちの抗争映画。
そのあたりは(苦手なので)軽く流して観ていた。
さて、マイキーはどうなる? ドラケンはどうなる?

 

ヒロインのヒナタがタケミチに言う台詞、「キミはいつもいきなりやって来るね」
これはなかなかに印象的で好かった。
最後、タケミチはヒナタが無事かどうか、確かめに行く。ドアから顔をのぞかせたヒナタは・・・。

 

今日から俺は」(観てないけれど 汗)に「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を組み合わせたような作品だった。
ヤンキーものが嫌いでなければ面白く観られるでしょう。
ヤンキーものが嫌いだったら・・・、どうなんでしょ?

 

「ザ・シークレットマン」 (2017年)

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2017年 アメリカ 103分
監督:ピーター・ランデスマン
出演:リーアム・ニーソン、 ダイアン・レイン

内部告発者の物語。 ★★★

 

1974年にニクソン大統領が辞任に追い込まれたのは「ウォーターゲート事件」が原因だった。
それを暴露したワシントン・ポスト紙記者の物語が、ダスティ・ホフマンとロバート・レッドフォードの「大統領の陰謀」だった。
この二人のスクープに重要な役割を果たしたのが、匿名の情報提供者“ディープ・スロート”。
この映画は、その”デープ・スロート”の物語。

 

ウォーターゲート事件のおよそ30年後に、当時FBI副長官だったマーク・フェルトが、自分がディープ・スロートだと名乗り出ている。
本作はそのマーク・フェルトの自伝を基にしている。
歴史的な内部告発だったのだな。
それにしても、どうしてFBI高官ともあろう人物が内部告発をした?

 

マーク・フェルトはFBIに大いなる誇りを持ち、組織に忠誠を励む超・真面目人物。
長年FBI長官だったフーバーが亡くなると、長官代理にはニクソン大統領に近いグレイが抜擢された。
そんなときに、民主党本部に盗聴器を仕掛けようとした男たちが逮捕される事件が起こった。いわゆるウォーターゲート事件である。

 

彼ら犯人に関与した人物、それに資金提供者に元政府関係者の名前が挙がってくる。
情報を収集したフェルトは、これはホワイトハウスが関与しているのでは?と疑う。
しかし、そんなことが公になっては一大事と、ホワイトハウスも黙ってはいない。
グレイ長官代理を通じてフェルトの捜査に圧力をかけてくる。

 

なに、あと48時間でこの捜査を打ち切れだと?
こんな事が許されていいのかっ! FBIはホワイトハウスからは独立した捜査機関だぞ。
政府の圧力に負けたら、FBIの存在意義がなくなってしまうではないかっ。

 

リーアム・ニーソンがアクションを封印しての好演。
「96時間」以来、彼はすっかりアクション俳優となっていた。列車の中でも飛行機の中でも大活躍をしていた。
しかしかっては良心の人・シンドラーだったし、高潔なジェダイの騎士だったし、落ち着いた演技派俳優だったのだ。
今作では、背筋をピシッと伸ばして笑うことも忘れたような苦悩の人物を演じている。
強い意志と信念がその皺の増えた顔からも滲み出てくるよう。好い。

 

このままでは捜査は妨害され、ニクソン大統領の事件への関与はうやむやにされてしまう。
なによりも、FBIがコケにされたままになるっ!(まさか、こうは言わなかっただろうが・・・笑)
そこでフェルトが取った究極の手段が新聞社への情報リークだったのだ。

 

しかし、もしこのリークの犯人が自分であるとばれたら、自分もただでは済まない。
今までの自分の功績や今の地位を棒に振るかもしれないような行為であったのだろう。
そしてこのリークによって書かれた記事によって、一度は大統領選で勝利したニクソンは辞任に追い込まれたのだ。

 

内容的には地味な展開の硬派ドラマだったが、緊迫感がずっと続く。
フェルトの人間くさい悩みや葛藤も描かれる。
大統領の陰謀」や、そして事件は違うがやはり政府の陰謀を暴いた「ペンタゴン・ペーパーズ」を観た人には、この映画はお勧めである。

 

それにしても、我が国でも検察が調査しながら何となくうやむやになっている事件がいくつもある。
政府が存在を調べようともしなかった赤木文書がやっと公表された事件もある。
ときの総理大臣が都合のいい検事総長を任命して隠そうとしたのではないかと憶測されている事件もある。
日本の検察はどこまで頑張れるのだ?