あきりんの映画生活

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「エンドレス・ポエトリー」 (2016年)

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2016年 フランス 128分
監督:アレハンドロ・ホドロフスキー
出演:アダン・ホドロフスキー、 パメラ・フローレンス

悪夢のような自叙伝、後編。 ★★★★

 

カルト映画の鬼才ホドロフスキー監督が80歳を超えて撮った自叙伝映画の後編。

前編の「リアリティのダンス」は、一家で故郷トコピージャから首都サンティアゴへ移住するところまでだった。
後編では、アレハンドロは少年から多感な青年へと成長していく。

 

創られたものとしての映画はいきなりやってくれる。
サンティアゴの街を映すときに、倒れていた書き割りの家が次々と起こされて並んでいくのだ。
そして大きな看板のような蒸気機関車の切り抜きを持った人が走って来る。
これは偽物の世界なのだよとホドロフスキー監督がまずは念押しをしているよう。

 

そんなことは言われなくてもホドロフスキーなのだから覚悟はしている。
現実と幻想は入り乱れているし、生身とハリボテは同じ次元で存在している。
街を歩く人々は、みんな(無表情な)仮面をつけているのだ。
あいかわらず豊満な母親はすべての台詞を歌っている。

 

やがて青年アレハンドロは、自分を抑圧する父に抗って家を出る。
奇妙な家に住む芸術家の姉妹の家に転がり込み、そこに集まる自由人たちと親交を深めていく。
そうだ、自分は詩人なのだ、これからは詩人として生きていくぞ。

 

ホドロフスキー監督の大きな自負はこの点に在ると思われる。
映画を媒体としての表現活動は、とにかく自分が詩人だからしてきたることなのだ、と、この回顧映画で確認しているようだ。
その監督の詩心が、他の人の詩心を呼び覚ますところがすごいことだ。
詩心の連鎖であり、それこそ”エンドレス・ポエトリー”なのである。

 

さて、アレハンドロが夜中の酒場で知り合う女詩人がまた強烈な人物。
真っ赤な長い髪に隈取りのような濃い化粧で、2リットルものビールを飲んでいる。
これまた豊満な乳房をあっけらかんと皆に見せつけながらも、天から神が降りてくるまでは処女でいるのだという。

 

小人症の人たちもやはり登場する。
アレハンドロが幼い日にたむろしたサーカス小屋も出てくる。
万華鏡のように世界は移り変わり、真っ赤な着ぐるみの人たちと、骸骨の着ぐるみの人たちが乱舞する。

 

故郷の実家は火事になり、思い出が焼けてしまう。
焼け跡から見つけた母のコルセットをたくさんの風船に結びつけて空へ放すところは美しい場面だった。

 

やがてアレハンドロは自分を束縛し続けた厳格な父親と決別しようとする。
港での抱擁を終えて青年アレハンドロはパリへ旅立つ。そして二度と父親に会うことはなかったという。
しかし、父親は父親なりに自分を愛してくれたのだろうと、老いた今は監督も思えているのだろうか。

 

こうしてホドロフスキーが映画監督になる手前で映画は終わっていく。
観る人を選ぶ映画であることは間違いないのだが、この世界観が好きな人にはたまらない作品だった。
さて、この続きを監督は撮るつもりがあるのだろうか?