あきりんの映画生活

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「すばらしき世界」 (2020年)

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2020年 日本 126分
監督:西川美和
出演:役所広司、 仲野太賀

社会派人間ドラマ。 ★★★☆

 

佐木隆三の実録小説を西川美和監督自身が脚本にしている。
これまではオリジナルな物語を映像にしてきた西川監督にとっては、初めての原作もの。

 

主人公は13年の刑期を終え、旭川刑務所から出所してきた元殺人犯の三上(役所広司)。
三上は「今度こそカタギぞ」と自分自身に言いきかせている。
刺青も入れていて何度も刑務所に入っている彼だが、根っからの悪ではないのである。
ただただ生き方が真っ直ぐすぎて不器用なのである。

 

今回の殺人も、元は元妻を理不尽な暴力から守ろうとして起こしたこと。彼なりの正義感から生じたことなのだ。
ただ、彼はすぐにカッとなってしまう。
筋が通らないことに怒りが生じると、その暴力性に抑えが効かなくなるのである。
ああ、またやってしまった・・・ということになる人生を歩んできたのだ。

 

人懐っこい面があり、一本気な正義感があり、そして怒りを抑えられない短気な人物、そんな三上を役所広司が実に上手く演じている。
その真っ直ぐで裏表のない人柄が生むユーモア感も自然に出ていた。

 

映画は、そんな三上が前科者に対する偏見の社会で何とかまっとうに生きていこうとする様子を描いていく。
不器用な彼を支援しようとする人たちもいる。
身元引受人となってくれた弁護士夫婦、彼を万引き犯と間違えたことから知り合っていくスーパーの店長、始めは冷たくあしらっていた役所の生活支援窓口の係員、番組のネタにしようと取材を始めたTVディレクターの青年・・・。
みんな彼の危なっかしい生き方を支えようとしてくれる。温かい人たち。

 

タイトルの「すばらしき世界」を、前科者が生きにくい社会を皮肉っていると取ることもできる。
しかし、逆に、三上を支えてくれた人たちの温かみを指しているととることもできる。
「すばらしき」には、その両方の意味が含まれているのだろう。

 

確かに傑作である。
浮ついたところのないしっかりとした内容を、きっちりと描ききっていた。
原作ものであることも影響しているのかもしれない。

 

しかし、その分だけ西川監督本来の自由に人物造型をおこなうという点は制約を受けていたように思える。
蛇イチゴ」「ゆれる」のような捉えどころのない人の心の綾を描いているわけではなかった。
そのあたりが、初期の西川作品のファンとしてはやや物足りなかった。
でも、これだけの映画を見せられては、それは無いものねだりというものだろう。