あきりんの映画生活

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「私の頭の中の消しゴム」 (2004年) 二人の愛を襲う病

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2004年 韓国 117分
監督:イ・ジェハン
出演:ソン・イェジン、 チョン・ウソン

若年性アルツハイマー病。 ★★★★

 

20年近く前の映画だが、当時、こんなに辛く哀しい恋物語があるのかと思ったものだった。
愛し合った二人の愛を辛い病が襲う物語である。

 

建設会社の社長令嬢のスジンソン・イェジン)。
彼女は不倫が破局し、荒れた気持ちで夜の街を彷徨う。
濃くケバい化粧がこのときの彼女の心情をよくあらわしていて、このあとの清純な彼女との対比となっていた。
そしてコンビニの入口で、1本の缶コーラをめぐって粗野な感じのチョルス(チョン・ウソン)と出会う。
やがて再会した2人はすぐに恋に落ちる。

 

場末の露店の飲み屋で、チョルスが焼酎をつぎながらスジンに言う、貴女がこれを飲んだら結婚する。
スジンが尋ねる、もし、飲まなかったら? チョルスが答える、一生会わない。
それを聞いてグラスの焼酎を一気に飲みほすスジン
好いなあ、ベタだけれど好いなあ。

 

ソン・イェジンは以前に「ラブレター」で観た女優さんだった。
初々しさがなんとも魅力的だった。
なんでも最近は大ヒットしたドラマ「愛の不時着」のヒロインを演じているとか。20年近くが経っていてもやはり魅力的なのだろうな。

 

二人の結婚生活がはじまる。この幸せな日々の二人は文句なしに輝いている。
チョルス役のチョン・ウソンも、男気いっぱいで包容力のある旦那さんを演じて格好好い。
そんな二人だけに後半の悲劇が対照的に迫ってくる。

 

次第にスジンは物忘れがひどくなり、ときに自宅へ戻る道にも迷うようになる。
心配になって医者に診てもらったところ、若年性アルツハイマーという思いもよらぬ診断結果を告げられるのだった。
医者が言う、身体は健康なままに心だけが死んでいく病気だ。
これは辛い。

 

アルツハイマー病を扱った映画としては、2014年のジュリアン・ムーアがアカデミー主演女優賞をとった主演「アリスのママで」があった。
邦画では2006年の「明日の記憶」が印象的だった。
この映画はそれらよりも早くに作られている。本作によって若年性アルツハイマー病の存在を知った人も少なくないのではないだろうか。

 

物語に直接の関係はないのだが、気になったのはスジンの主治医の病名告知。
確かに今は昔とは違って患者本人に真実を告げなければならないことになっている。
かっては癌が見つかったときは、先に家族を呼んで本人にも知らせるかどうかを相談した。
今は、本人にまず告げて、それから家族にも告げるかどうかを相談する。

 

しかし、この場合はアルツハイマー病である。
本人の記憶は失われていき、認知能力も失われていく病である。本人が最後まで自己責任で対処できる病ではない。
ならば、少なくとも家族同席で病名告知をするのが妥当ではなかっただろうかと思ってしまった。
しかし、それでは映画にならないか・・・(汗)。

 

病気が進んでいくスジンがチョルスに言う、もう愛してくれなくていい、どうせみんな忘れてしまうのだから。
チョルスが言う、俺が全部覚えておく、俺がおまえの記憶だ。

 

そうはいっても、記憶がなくなっていくのは辛く切ないことである。
覚えていられない本人も辛いが、その当人に忘れられてしまう相手も辛い。
スジンはチョルスの顔を見て、かっての不倫相手の名前を呼んだりするのだ。
本人にもどうすることもできないのだ。それが判っているから、相手もどうすることもできないのだ。

 

病気が判ってからの日々に、かっての幸せだった日の台詞を絡ませている。やはり、じーんときてしまう。
かっての屈託のない日々が輝いていただけに、病が明らかになってからの二人がより切ない。

幸せだった日々にチョルスがしてみせるカード当てゲームがあった。
病が進みはじめたスジンが、1回だけしてみせてと頼んで、チョルスがいつもの口上をしながらおこなう。
結局スジンは、どうせ当たらないわとカード当てを止めてしまうのだが、実はどのカードを選んでも当たるようにチョルスは仕組んでいたのだった。
チョルスの優しさをさりげなくみせていた。好い場面だった。

 

さてそれからの二人はどうしたのか? 二人はどんな選択をしたのか?
すべてを忘れてしまったスジンが、ここは天国? と尋ねる場面がある。
記憶にはなくても、スジンにはどこか懐かしいところに感じられたのだろうな。

 

当時、号泣必死と宣伝された映画でした。
今でもその宣伝文句は嘘ではありません。