1964年 フランス 96分
監督:ロベール・ベッソン
出演:アンヌ・ビアゼムスキー
ロバの周りの人生ドラマ。 ★★☆
私はどうもロベール・ベッソン監督は合わないのではないだろうかと思っていた。
あの傑作との評価が高い「ラルジャン」を初めて観たとき、まったく面白く思えなかったのである。
これはきっと私の鑑賞眼が悪いせいだろうということで、しばらくしてもう一度観た。
でも、やはりまったく面白くなかった。
今作はそのロベール・ベッソンが描いた一頭のロバの話である。
生まれたときに、村の教師の娘マリーに“バルタザール”と名前をつけられたロバ。
そのバルタザールは、その後、いろいろな人の手に渡り、年月が経つ。
バルタザールの周りにあらわれる人は、マリーの両親(プライドを重んじる父、平穏無事が一番と考えている母)、暴力的な不良のジェラール、反対に礼儀正しいのだが臆病な幼馴染みのジャック。
その他にも、現世の利益を追い求める老人、刹那的に暮らすアル中浮浪者、権力をかさにきて威張り散らす警察官、などがあらわれる。
バルタザールの周りでこれらの人々が(自分勝手に)生きていく。
もちろんそんな事柄はロバのバルタザールには何の関係もなく、意味もない。
マリーはジェラールに弄ばれながらもつかの間の愛を求めるし、ジャックのおずおずとした愛の告白には冷たく当たる。
マリーがどこかで観たような面持ちの少女だなと思っていた。
なんと後にJ・L・ゴダールの「中国女」などでヒロインを演じ、ゴダール監督とも結婚してしまったアンヌ・ビアゼムスキーだった。
この映画は彼女の映画デビュー作で、17歳だった。そうなんだ。
人々が繰り広げる人生ドラマは、その当人にとっては大事なことばかり。
しかし他人にとってはたいした意味は持たないことばかりなのだ。
バルタザールも愚かな人たちの争いの巻き添えを食って道ばたで死んでいく。
ベッソン監督は、「ラルジャン」では1枚の贋札の変転を追うことによって、冷徹に人間模様を描いていた。
今作では贋札の代わりにロバの変転を追うことによって、やはり冷徹に人間模様を描いていた。
対象を見つめる眼差しは冷たく、突き放したように醒めたものがある。
観ているのが辛くなるような映画だった。
ドストエフスキーの「白痴」(未読)の中の挿話から着想を得て描いたとのこと。
ベネチア国際映画祭で審査委員特別賞を受賞しています。
そうか、ちゃんとした人が観ればちゃんと評価される映画だったのだな。