あきりんの映画生活

映画鑑賞だけのブログです。★★★★が満点評価ですが、ときに思い入れ加算があります。約2000本の映画について載せていますので、お目当ての作品を検索で探してください。監督名、主演俳優名でも検索できます。

「第三の男」 (1949年) このモノクロの画面の光と影を見よ

1949年 イギリス 105分 
監督:キャロル・リード
出演:ジョセフ・コットン、 アリダ・バリ、 オーソン・ウェルズ

サスペンスものの名作。 ★★★★

 

脚本はグレアム・グリーン。監督はキャロル・リード
第二次世界大戦直後のウイーンを舞台にした、言わずと知れたサスペンス映画の名作。
あまりにもその評判を聞きすぎていて観たような気になっていたが、実は初見だった(汗)。

 

当時は米英仏ソの四カ国によって分割統治をされていたウィーン。まだ戦禍の跡が残っている雰囲気である(映画が撮られたのは終戦後4年目)。
そんな街に親友ハリー・ライムを訪ねて、アメリカから作家のホリー(ジョゼフ・コットン)がやってくる。
だが、ハリーは交通事故で死亡したばかりだった。

 

ハリーの葬儀の場で、ホリーはハリーの恋人だったアンナ(アリダ・バリ)を見初める。
ホリーは、ハリーの死の不可解な状況を確かめようとウイーンの街を彷徨う。
実はハリーは悪事に手を染めていたというのだ。本当にハリーは悪人だったのか?
彼の死亡現場には三人の男がいたというのだが、三番目の男の正体が不明なのだ。
”第三の男”は誰だったのだ?

 

昼の場面も当然あるのだが、この映画の印象は夜の街である。
灯りに照らし出される部分と、影の中に沈んでいる部分、その対比が美しい。
人の世の見えている部分のすぐ傍らにある見えない部分を暗示しているようでもあった。

 

そして、有名な夜のウイーンの街角の場面。
暗闇にたたずんでいた男の顔が不意に窓明かりに照らされる。
・・・ほくそ笑んでいるようなハリー(オーソン・ウェルズ)の顔が浮かび上がる。
ハリーは生きていたんだ! ここはやはり秀逸だった。

 

クライマックスはウィーンの街の地下に巡らされている地下水道での追跡劇。
逃げる者、追う者、それらの足音が反響する。乏しい灯りに人影が大きく石壁に映ったりもする。

 

そんなあちらこちらに闇がある地下下水道に、ついに一発の銃声が響く。
悪人のハリーさえいなくなればアンナは自分のものになるのではないか、そんな浅はかな考えがホリーに芽生えなかったとは言い切れないだろう。

 

そして今度は本当に死んだハリーの埋葬の場面。アンナの姿を目で追うホリー。

ラストの場面はあまりにも有名である。
梢が切りそろえられた並木が続く一本道をアンナがやってくる。声をかけたい、あるいは声をかけられたいホリーがたたずんでいる。
しかしアンナはそんなホリーを一瞥することもなく歩き去って行く・・・。
女心の哀しい、そして強い決意が伝わってくる場面だった。

 

物語そのものは、最近の複雑に絡み合うサスペンスものに比べれば単純である。
しかしウイーンの街の光と影を巧みに捉えた映像は言いようのない詩情をたたえている。
さすがに名画と言われるだけのことはある映画だった。

 

全編に、この映画で有名になった民族楽器のチターの音が響いています。
カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞しています。