あきりんの映画生活

映画鑑賞だけのブログです。★★★★が満点評価ですが、ときに思い入れ加算があります。約2000本の映画について載せていますので、お目当ての作品を検索で探してください。監督名、主演俳優名でも検索できます。

「ザリガニの鳴くところ」 (2022年) 危険が迫ったら、ザリガニが鳴くところまで逃げるんだ

2022年 アメリカ 125分 
監督:オリビア・ニューマン
出演:デイジーエドガー・ジョーンズ

・・・殺人事件サスペンスもの。 ★★☆

 

原作はディーリア・オーエンズの同名小説。世界的に評判となり、日本でも高評価だった。
一人の苛酷な運命の少女の成長譚で地味な内容なのだが、たしかに読ませる何かを持っていた。
かなりの大冊だったが、私も最後まで一気呵成に読んでしまった。
さて、あの物語をどんな風に映画にした?

 

舞台はノースカロライナ州の湿地帯。沼が点在して家は1軒しかないような所。
そこに暮らすカイアは両親、兄2人と5人で暮らしていたのだが、父親がすぐに暴力を振るう様な人物。
母はそのDVに耐えられずにある日、家族を捨ててどこかへ去ってしまう。
兄二人も、もうこの家では暮らせないと言って、それぞれ家を出て行ってしまう。
暴力的な父とふたりで取り残された幼いカイアの必死の生活が始まる。

 

映画の方は、街の資産家の家の青年が変死体となって発見されたところから始まる。
いきなりのサスペンスからはじまるわけだ。その方が映画の作りとしてはやりやすかったのだろう。
そして犯人として疑われて逮捕されたカイアのこれまでの身の上をふりかえる、という構造となっている。

 

カイアは、母が去った6歳の時からは、父親にも育児放棄される。
学校へも通わずに湿地の自然の中で貝を採取してはわずかなトウモロコシ粉と換えて、たった1人で生き抜いてきたのだ。
街の人たちはそんなカイアのことを”湿地帯の少女”とさげすんできたのだ。

 

湿地帯の豊かな自然の描写は、これは映画ならではの美しさで、堪能できた。
自在に小舟を操り、沼を行き来し、その湿地帯に生息する動植物たちとともに成長していくカイア。

 

カイアを温かい目で支えてくれたのは、沼の外れで素朴な商いをしている黒人夫婦。
そしてカイアが出会う二人の青年。
一人は純真でカイアに読み書きを教えてくれた。
もう一人はカイアに言い寄ってきて、ある夜に不審死を遂げた。

 

殺人の罪で起訴されたカイアの陪審員裁判はどうなる?
街の人たちはみんな、”湿地帯の少女”なんてまともな人物とは思っていないぞ。

 

この映画に対する一番の不満は、単に恋物語を絡めた殺人サスペンスになってしまっていたこと。
原作のすばらしさは、サスペンス部分はひとつの味付けで、一人の孤独の少女の成長譚にあったのだが・・・。
この小説の持つ魅力はかなり損なわれていた気がする。

 

最後に事件に大きく関わるあるものが映る。
小説では、なるほど、そういうことだったのか、と余韻を残す程度の扱いだった。
なにしろ、カイアの生き様があまりにすさまじかったので、その前ではそれもひとつの味付けぐらいだったのだ。
ただ映画では、それが物語の根幹であるような扱いだった。あれぇ。

 

小説未読の人なら、普通のサスペンス映画として楽しめると思います。
小説を読んでしまっていたら・・・、あまりお勧めしません。たぶん、がっかりするでしょう(汗)。