あきりんの映画生活

映画鑑賞だけのブログです。★★★★が満点評価ですが、ときに思い入れ加算があります。約2000本の映画について載せていますので、お目当ての作品を検索で探してください。監督名、主演俳優名でも検索できます。

「線は、僕を描く」 (2022年) 真っ白な紙には無限の可能性がある

2022年 日本 106分 
監督:小泉徳宏
出演:横浜流星、 清原果耶、 三浦友和、 江口洋介

水墨画に魅せられて。 ★★☆

 

大学生の青山霜介(横浜流星)は、アルバイト先で椿を描いた水墨画に魅せられる。
そんな霜介に、水墨画会の巨匠篠田湖山(三浦友和)が声をかける。
君も水墨画を描いてみないかね。

 

こうして、まったくの素人だった主人公が巨匠に才能を見いだされて成長していく・・・、王道のパターンではある。
しかしこの映画、水墨画というやや珍しい芸術世界を題材にしたことでオリジナル性を出していた。

 

このところ横浜流星をよく観る。売れっ子なのだろう。
この映画でも、まっすぐな青年の感じをよくあらわしていた。
そして兄弟子役に江口洋介。温厚で人当たりがよく、包み込むような包容力を持っている役だった。

 

江口洋介横浜流星池井戸潤原作の「あきらとアキラ」でも共演していた。
二人ともこの映画とはまったく違う役柄で、どちらかと言えば二人とも憎まれ役だった。役者さんてすごいね。
お手伝いさんの振る舞いをしていた江口洋介だが、実はまさかの絵師、それもかなり有名な絵師だったいうところには驚いた。好いねえ。

 

主人公が青年であれば、当然のこととして美少女を登場させなければならない。
水墨画の才能はありながらも壁に突き当たっている湖山の孫娘に清原果耶。
・・・ちょっと存在感が薄かったような気がした。

 

彼女が霜助に手ほどきをしたときに、印象的な台詞があった。
水墨画ではたっぷりと水を含ませた筆の中に濃さの違う墨を3つ作るのよ。
なるほど、それで単調にならない線を描くのだな。しかしそれは凄い技術だな。

 

小泉徳広監督のこのチームはあの競技カルタの世界を描いた「ちはやふる」を撮っている。
で、”かるた”を”水墨画”に置き換えたイメージで製作したのではないだろうか。
それはいいのだが、この両者では決定的に異なる点があった。
それは、「ちはやふる」は競技カルタだったので競争の世界だった。しかし、水墨画は個人完結の世界であるために(公募展はあったが)、競争性には乏しい、というところ。

 

やはりライバルがいて、勝ち負けの対決をして切磋琢磨する世界の方がエンタメ性を盛り上げやすいわけだ。
そのために本作のドラマとしての盛り上がりは少なかった。
主人公が抱えていた過去の悲劇は、それ自体はよしとしても、あの背比べの傷が付けられた柱、あれはあざとすぎた。

 

悪人が一人も出てこない映画です(主人公を妬んで足を引っ張る、そんな奴は出てきません)。
油絵のような濃密な世界ではなく、さらっとした世界の映画でした。
いささか物足りない感じは残るものの、おだやかな気持で観ることができます。