あきりんの映画生活

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「夏の嵐」 (1954年) 破滅に向かう伯爵夫人の不倫物語

1954年 イタリア 121分 
監督:ルキノ・ビスコンティ
出演:アリダ・バリ、 ファーリー・グレンジャー

19世紀の恋物語。 ★★★

 

時代は1866年、オーストリアとイタリアの戦争が起きており、ベネチアも不穏な雰囲気となっている。
この映画は、そんな状況下で若い将校に心を奪われた伯爵夫人の不倫物語。
しかしヴィスコンティなので、その描き方たるや豪華絢爛である。彼の最高作との評価もあるようだ。

 

映画はオペラ座の舞台場面から始まる。
朗々とした歌声、華やかな舞台。それを観覧している上流貴族の人たち。
この始まりからしヴィスコンティらしい耽美趣味があるなと思わされる。

 

伯爵夫人であるリヴィア(アリダ・バリ)が見そめたのは、ベネチアを占領しているオーストリア軍の将校フランツ(ファーリー・グレンジャー)。
実は、この頃の歴史状況に疎いもので伯爵家とオーストリア軍の関係がよく判らなかった。

 

日本で言えばちょうど幕末に当たる頃なのだが、例えを使ったある解説が面白かった。
いわく、リヴィア伯爵夫人は徳川方の大名の奥方、オーストリア軍は長州の倒幕軍でフランツは長州藩士、と考えると理解しやすいとのこと。
これが正しいのかどうかは判らないが、なるほどと思った。

 

恋に落ちたリヴィアの、人目もはばからずにフランツに逢いに兵舎を訪ねたりする行動には呆気にとられる。
おいおい、あんた、人妻だろ、夫は格式高い貴族なんだぜ。そんなことをしていいのか?
しかし、周りのものが眼に入らないほどになっている彼女の恋心は、もはや世間常識などでは止められないのだ。
原題はなんと「官能」。それを「夏の嵐」とした邦題はたいしたもの。

 

アリダ・バリはもちろん「第三の男」で有名な女優さん。
彼女は眉の形のせいか、私はいつも(ちょっと怖ろしい)般若を連想してしまうのだが、他の人はそんなことはない?

 

戦争が激しくなり、部隊が移動してベネチアを去ったフランツを追いかけていくリヴィア。
この頃の伯爵夫人という肩書きはすごかったようで、名乗るだけでオーストリア軍もリヴィアの通行を許可してくれたりする。
それ、夫の肩書きを利用して不倫をしに行っているようなものだぜ。いいのかい。
でも、そんな観ている者の思いなどなんのそので、リヴィアは恋人を求めてしまっているのだ。

 

ついには、偽の診断書を発行してもらってフランツの兵役免除を企むリヴィア。
そのために預かっていた公金にも手を付けてしまう。
しかし、そこまでして愛したフランツだったが、兵役から逃れた彼は・・・。

 

フランツの裏切り、そしてリヴィアの告発による彼の破滅。
自らフランツを破滅させたリヴィアも、彼を失って破滅していく・・・。

 

判らなかったのはフランクの恋心。
徹頭徹尾、ジゴロ性格のなせる技だったのだろうか。
リビアを愛したのも移り気な一時的なことで、大金を巻き上げることができればもう用はない、というのが実際だったのだろうか。

 

少し彼に好意的に考えれば、彼もリビアを本当に愛していたのかもしれない。
しかし、リビアから大金を受け取り兵役から逃れた自分自身に嫌気がさして、そんな切っ掛けを作ったリビアにも冷たく当たってしまった、と考える余地はないものだろうか。

 

物語のうわべだけ見れば、単に破滅に向かう不倫騒動ということなのだが、その描き方の味付けが大変に濃厚なものとなっている。
水彩画や版画、アクリルがではなく、厚塗りの油絵である。その画面に惹きつけられて見終わった作品だった。