2021年 134分 日本
監督:瀬々敬久
出演:佐藤健、 阿部寛、 清原果耶、 倍賞美都子
悲痛のサスペンス。 ★★★☆
原作は中山七里の同名小説。
エンタメに徹した作品が多い中山だが、これは骨太の人間ドラマになっているとの評判だった(未読)。
あの東日本大震災から9年が経ち、復興がおこなわれてきた宮城。
その県内で身体を縛られたまま放置されて餓死させられるという連続殺人事件が起こった。
なんという殺人方法だ・・・!
餓死させられるなんて、よほど特別な恨みを抱いた犯人か?
捜査に当たった宮城県警の笘篠(阿部寛)の聞き込みでは、被害者はいずれも人格者と言われていたような善人だったことがわかる。
役所の福祉課のような人のために尽くす部署で真面目に働いてきたそんな彼らが、何故殺された?
映画は大震災直後の被災地の様子も映し出す。
避難所にはやっと生き延びた人たちが乏しい食糧、乏しい衣服で暮らしている。
親家族とも死にはぐれてひとり震えている少女カンちゃんもいる。
世の中の理不尽さに、どこに捌け口を求めたらよいのか判らずに苛立つ青年・利根(佐藤健)もいる。
映画は震災直後と9年後の現在を絡ませながら進んでいく。
震災で住むところも失ったカンちゃんと利根は、独り暮らしの老女・けい(倍賞美都子)の家で一緒に暮らすようになる。
家族を失ったもの同士が、まるで家族のように仲良く暮らしていたのだ。
さて、9年後の今。
笘篠は、2つの殺人事件からある共通項を見つけ出す。そして利根が容疑者として捜査線上に浮かび上がるのだ。
殺人の動機は何だったのか?
佐藤健がいかにも世の中に反抗して不機嫌な青年を演じていて上手い。
ことある事に人にぶつかって生きていく奴なのだな、そんなイメージで観ていた。
そんな佐藤健が、最後近くのある場面で本当に人を思いやる青年の姿を見せる。
ああ、好い映画だなと、そのときに思ってしまった。
(以下、ネタバレ)
まさか大きくなったカンちゃんが彼女とは思わなかった。
してやられた。
(でもそれは別にして、犯人の見当は途中からついてしまったけれど・・・)
この映画の登場人物には真の悪人はひとりもいない。
それなのにこれだけの憎悪が生まれ、殺人がおこなわれてしまっている。
それぞれの立場で正しいことをしただけなのに、護られない人ができてしまった。
何が誤っていたのか? こんなことを起こさないためにはどうすればいいのか?
そんな問題を投げかけてくる重いテーマの作品だった。