あきりんの映画生活

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「コンクリート・ユートピア」 (2023年) いいえ、普通の人たちでしたよ

2023年 130分 韓国 
監督:オム・テファ
出演:イ・ビョンホン、 パク・ソジュン、 パク・ボヨン

極限状態下で生き延びることとは。 ★★★

 

(石川での大地震があったばかりで、鑑賞はどうかとも思ったのだが・・・。)
天変地異で崩壊した街で生き延びた人たちのドラマ。
極限状態に置かれた際の人間性をえぐり出している。

 

ふいに起きた原因不明の大災害でソウルは一瞬にして廃墟と化してしまう。
壊滅した街のなかで唯一崩落しなかったのがファングンアパートだった。
前振りも厄災原因の説明もいっさいなし。とにかく街はこうなってしまったのだと、そういう状況を提示してくる。
この映画はその状況下で始まる物語。

 

周りの倒壊した建物の住人は、ファングンアパートに押し寄せてくる。
人々は寒さをしのぐために建物へ侵入し、残された食料の確保競争もおこなわれる。
我が身が、そして家族が生き残るためにはもうなりふりなんかかまってはいられない。
遠慮や謙譲の美徳では生き残れないのだ。原始的な闘いなのだ。

 

すると、危機感を抱いたファングンアパートの住民たちは、自分たちの権利を主張するのだ。
よそ者に甘いことをしていたら自分たちも死んでしまう。
よそ者はこのアパートから追放して、私たちだけのルールを作り、ここを私たちの”ユートピア”にしましょう!

 

彼らは902号室に住む職業不明の冴えない男ヨンタク(イ・ビョンホン)を住民代表にして、自分たちだけの世界を作り上げていく。
食料調達隊は周囲の廃墟を探索して、残っている缶詰やジュースなどを持ち帰ってくる。
食料調達のためには、ときには生き残っていた他の人たちとの武力争いまでする。

 

そうなのだ、ここに描かれているのは、住民と非住民との完璧な分断である。
トランプ政権が謳い文句としていたような、すべては我々だけのために、という考えである。
代表となったヨンタクは、何度もアパートは住民のものです!と叫ぶ。
今の世界で起きている難民問題や自衛と称しての他者殺戮を思い起こさせるのだ。

 

かつては韓国映画の四天王のひとりだったイ・ビョンホンももう50歳になるとのこと。
それでも充分に格好いい。ただ角度によっては遠藤憲一、あるいはちょっとハンサムな原田泰造に見えないこともなかった(苦笑)。
ヒロインのミュンファ役のパク・ボヨンは、これはもう井上真央そっくりということで異論はないだろう(笑)。

 

物語はそんなヨンタクに隠されていた秘密が明らかになったりして、いよいよ混沌としていく。
どこに救いがあるのかといったディストピアである。
しかし、最後にかすかな暖かみが描かれて映画は終わっていく。

 

新しく知り合った人がミョンファに尋ねる、ファングンアパートの人たちって怖ろしいんでしょ、他人を殺してでも食べものを奪うのでしょ。
彼女が答える、いいえ、あのアパートの人たちは普通の人たちでしたよ。

 

そう、それは普通の人たちが災害によって表に出した顔だったのだ。この映画が描こうとしたものもそこにあるのだろう。
極限状態のなかでの人々の行動、理性、価値判断を問い直していた。

そのうえで、本当のユートピアとは何だろうと考えさせる映画だった。
韓国映画、えぐいけれど迫力は並ではないな。