2002年 フランス 99分
監督:ギャスパー・ノエ
出演:モニカ・ベルッチ、 ヴァンサン・カッセル
復讐のバイオレンスもの。 ★☆
ストーリーとしては、恋人(モニカ・ベルッチ)をレイプされた男(ヴァンサン・カッセル)が復讐をはたすまでの経緯を描いているのだが、作品冒頭にエンド・クレジットが流れ、作品自体の時間軸も逆にさかのぼっていくという構成。
時間がさかのぼるたびに、画面はぐるぐると不安定に回り、不気味な低音の音楽が充満して、それだけでも異様な雰囲気となる映画。
映画祭でも話題になったという、復讐の暴力シーンだが、さすがにすさまじい。
画面は赤を主体とした色合いで、手持ちカメラらしいぶれまくりの画像で落ちつかない。地下室なので光も乏しい。気の弱い人だったら気分不良になりそう。
時間がさかのぼって、その復讐のもととなったモニカ・ベルッチが地下道でレイプされる場面も、これでもかというほどに延々と続く。今度は地面すれすれの低い視線。
フランスの夜の地下道って、こんなに恐ろしい場所だったのか、と思わせる。
さらに、ヴァンサン・カッセルとの幸せだった時の画像にさかのぼる。
二人の(ベルッチだけではなく、カッセルも!)全身を露わにした、本当の夫婦でないとこの雰囲気は出せないのでは、と思わせるシーン。
さらにさかのぼり、美しいベルッチが公園で本を読んでいるという美しいシーンとなり、映画が終わる。冒頭の暗い地下室の凄惨な場面の正反対であるような、明るい陽射しの下での穏やかなシーンである。
さて、この映画の評価は大きく分かれるだろう。
万人が好む映画ではもちろんない。しかし、ノエ監督らしいといって高い評価をする人もいるだろう(私はこの監督の作品は初めて観た)。
原題は「不可逆の」とか「とかえしのつかない」とかいった意味。
あんなに幸せだった二人が、とてつもない悲劇に巻き込まれていってしまった時間の流れは取り返しがつかない、それは誰にでも起こりうることだ、とでもいうように。
地下道というのは女性性器をあらわしており、復讐に使われた消化器は男根の象徴だ、という解釈をしている評も目にした。
しかし、私には駄目だった。
時間軸を逆したことによって、かろうじて映画として成り立っているが、それがなければなにもないではないかと思ってしまった。