あきりんの映画生活

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「髪結いの亭主」 (1990年)

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1990年 フランス 80分
監督:パトリス・ルコント
出演:ジャン・ロシュフォール、 アンナ・ガリエナ

美しい官能的な映画。 ★★★★★

日本で公開されたルコントの1作目(制作は「仕立屋の恋」の方が先)。
女の床屋さんと結婚することを夢見ていた少年(アントワーヌ)が長じて、美しい理髪師マチルダと結婚してその望みをかなえる。
それからの毎日、世間と遮断されたような二人だけの満ち足りた生活が続いている。

これは感覚で観る映画といえる。
上に書いたようなストーリーもあるのだけれども、それを支えているのは、なんとも言いようのない作品全体の手触りのようなものである。
店先に差し込む光、謎めいた静かな微笑、通じ合う性欲、そしてマイケル・ナイマンの音楽・・・。

アントワーヌの少年時代の回想場面をのぞけば、現在の物語は理髪店の中だけの情景である。マチルダがある行動に出る短い場面をのぞいては・・・。
理髪店の中だけが舞台だということは、二人が、お互いに相手を愛し合うこと以外には何も要らない、という気持ちで結びつきあっていることを象徴している。
自分たち以外の世界など不要なのだ。

アントワーヌの中近東風(?)の音楽に合わせての踊りが、奇妙で、とても印象的。
映画の冒頭でも少年時代のアントワーヌが踊っている。映画の終わりでもアントワーヌは踊る、妻がもうじき戻りますから、と散髪に来た客に言って。

多くを語らないマチルダは官能的。
アントワーヌのすべてを賭けた愛を、マチルダはこれもまたすべて無条件に受け入れる。
チルダがなぜアントワーヌの突拍子もない求愛を受け入れたのか、よく考えれば疑問だが、この映画自体がルコントの描く夢なのだろう。
そんな意味では、自らの夢を映画にとり続けたF.フェリーニを思ってしまった。

チルダのとった行動は、彼女にとって、はたして正しかったのだろうか。
後に残されるアントワーヌの思いを、彼女はどのように考えたのだろうか。
そんな一抹の疑念も浮かぶのだが、しかし、理屈ではないだろう。やはりここも感覚でとらえておけばよいのだろう。

幸せで、それなのにとても不幸せで、心が満たされるようで、それなのにぽっかりと空いた空虚感があって。
観終わったあとに、そんな相反するような気持ちが絡まりあって押し寄せてくる、そんな映画であった。

美しくて、官能的で。
ルコントの真骨頂といえるのではないでしょうか。