あきりんの映画生活

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「未来世紀ブラジル」 (1985年)

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1985年 アメリカ 143分
監督:テリー・ギリアム
出演:ジョナサン・プライス、 キム・グライスト、 ロバート・デ・ニーロ

カルト的SF映画。 ★★★☆

国民が徹底的にコンピューター管理されている近未来を舞台にして、ギリアム監督独特の悪夢のような物語が展開される。
一匹の虫をたたきつぶそうとした小役人のせいでコンピューターが誤動作をして、一般市民がテロリストにされてしまう。そんな理不尽な管理社会での物語である。

この作品は、同じように近未来を描いていた「ブレードランナー」の3年後の作品。
あちらの近未来世界がびしょびしょと降る雨に象徴されるように湿っていたのに比べて、こちらの世界は乾燥しきっている雰囲気がある。
情緒とか、感傷とかいうものは全くなくて、規則と能率だけが人を支配していることを強調しているのだろう。

しかし、風景はどこかレトロっぽい。
街には水蒸気と炎を吹き上げる煙突が林立しているし、あちらこちらでやたらと太いパイプが交叉する複雑そうな装置が見かけられる。
構築されている世界は決して美しくはない。ただ、そこがこの作品の大きな魅力にもなっている。

あらゆる管理はおびただしい紙書類で行われている。
そんな社会での生活を送りながら、主人公は天を駆けめぐり囚われの美女を助けるという物語を夢想している。
絵に描いたようなヒーロー願望なのだが、これも個人の復権への欲求をあらわしているのだろう。

面白かったのは高級レストランでの気取った食事場面。
生の根源である食事までもが画一されたメニューになっているという発想はすごい。
どのメニューを選んでも、見た目はただのペースト状のものがでてきて、全く美味しそうではない。そして、そのペーストにはかっての料理の写真がついているのだ。
このナンセンスさは、もう、たまりませんな。

主人公が新しい職場にでかけると、そこで待っていたのは管理社会を象徴するようなオフィスである。
上司は大勢の部下を引きつれて休む間もなく歩き回り、のべつまくなしに指示を出しまくっている。
おしこめられるような極端に狭い仕事部屋。そして、壁を挟んでひとつの机をぶんどり合うというドタバタ劇が、競争社会の象徴となっていた。

ロバート・デ・ニーロが謎の反政府修理屋に紛して肝腎な場面で登場してくる。
社会を管理している象徴があのパイプだらけの機械であり、それを勝手に修理するというところが反政府の象徴なのだろうな。

このような、管理社会とその束縛から逃れたいという個人の欲求という主題は、今となってはあまりにも言い古されてしまった。
しかし、この映画な価値は、そんな紋切り型の主題など振り払ったところにある。

描かれる近未来世界の造型には、どこか悪趣味とも言える不気味さがある。
流れてくる主題曲は「ブラジル」である。あの陽気なメロディが、暗い抑圧世界にネガティブにマッチしている。
よかれと思って人類が構築した世界がいかに愚かなものかというブラック・ユーモアを、存分に楽しみたい。