あきりんの映画生活

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「クロッシング」 (2009年)

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2009年 アメリカ 139分
監督:アントワーン・フークア
出演:リチャード・ギア、 ドン・チードル、 イーサン・ホーク、 ウエブズリー・スナイブ

シリアスな刑事もの。 ★★★

クロッシング」という邦題は、内容からすれば、ちょっとはずれている。
ニューヨークの下町ブルックリンの警察署に勤務する3人の刑事の物語なのだが、彼らのそれぞれの物語はクロスしない。
言ってみれば、3人の刑事を主人公にしたオムニバス映画のような感じである。
ただ、3人の勤務警察署が同じであり、それぞれに起きる事件の日時が平行しているだけである。
ということで、3人のそれぞれの物語を交互に描いている、というわけだ。

ブルックリンというのはかなりの低所得者層が暮らす犯罪多発地区のようだ。
ここを舞台にした小説に「ブルックリン最終出口」というのがあった(映画化もされたらしい)。
暴力と性と酒がはびこり、さしたる理由もなく人が傷つけられるのが日常であるような街を描いた、絶望的な小説だった。
そんな街が舞台。だから人の心も荒れている。

エディ(リチャード・ギア)は1週間後に定年を迎える無気力な警察官。自分の人生に何の価値も見いだせずに、仕事の合間にアルコールを飲むような生活。
麻薬捜査官のサル(イーサン・ホーク)は信心深く家族思いなのだが、その貧困故に悪の金の誘惑にひきずられそうになっている。
ギャング組織へ潜入捜査官として入り込んでいるタンゴ(ドン・チードル)は、次第に精神の均衡を失いかけてきている。

3人の物語は、荒廃した街そのもののように、どれも暗く、重い。
どの警察官も自分の内部に暗いものを抱え込んでいる。
その苦悩が無気力な自己防衛的な行動であったり、悪事に荷担してまでも金銭を得ようとする行動につながっている。

3人の演技がそれぞれに重厚で、甲乙つけがたい見事さだったが、なかでもイーサン・ホークの狂気の一歩手前といった精神状態の表出は見事だった。
ドン・チードルも善の部分だけではない屈折した役柄で、いい味を出していた。

警察官が持つ公的な権力、それと引き替えに守らなければならない公的な正義。
それが無力な個人のなかで、”個人にとっての正義”と葛藤する。
最後に3人は同じ場所でそれぞれの事件の結末をむかえる。
ある者はわずかに残った気力で公的な正義を貫こうとし、ある者は”個人的な正義”に流されていく。
物語がのぼりつめ、1人だけはわずかにほろ苦い微かな微笑を浮かべるが、他の2人は救いのない結末を迎える。

警察ものといってもアクションはメインではなく、華々しさとはまったく無縁です。
なぜかあまり宣伝されていないようですが、ずっしりとしたものが見終わったあとに残る映画でした。
好い作品でした。