2000年 台湾 173分
監督:エドワード・ヤン
ある家族の日常の物語。 ★★★
”夏の想い出”という邦題からは、少年の夏休みのノスタルジックな物語かと思ってしまう。
しかし、物語は祖母、両親、姉、そしてヤンヤンという5人一家のひと夏の出来事を、淡々とつづったものである。
それは日常の物語である。
ある日、ゴミを捨てに出た祖母は脳卒中で昏睡状態となってしまう。その介護に疲れた母は精神不安定となり新興宗教にのめりこんでしまう。父は初恋の人と東京で秘かに再会する。姉のティンティンは隣家の少女のボーイフレンドと交際を始めてしまう。
こうして、家族の誰もが戸惑いながら自分の日々をおくっていく。
家族のそれぞれのエピソードが無関係に描かれていくのだが、それでいて全体でひとつのイメージを造りあげている。大した構成力だ。
ロング・ショットが多用されていて、画面はとても落ち着いている。
ティンティンは、自分が捨て忘れたゴミを捨てようとして祖母が倒れたのではないかという自責の意念に駆られている。
ティンティン役の少女(ケリー・リー)が初々しいながらも、どこか影のある雰囲気で好かった
(デビューした頃の山口百恵をちょっと思い出させた)。
父の仕事関係の役でイッセー尾形が出ている。何度か会食をして、含蓄のある会話を交わすのだが、彼が好い演技であった。
「生きていくということは初めての経験をしていくということ。なぜ、初めてのことを怖れるのです?」
彼に限らず、登場人物が交わす会話には、味のあるものが多い。
ヤンヤンがカメラをぶら下げて写真を撮って歩く場面がある。
ヤンヤンが撮るのは、壁に止まっている蚊や、人の後ろ頭ばかりなのだ。
なんで後ろ頭ばかり撮るんだ?と訊かれたヤンヤンは、だって頭の後ろは自分では見ることができないでしょ、だから撮ってあげるの、と答える。
これって、哲学的なのか? 微妙に面白い。
映画は叔父さんの結婚式の場面ではじまり、祖母の葬式の場面で終わる。
おばあちゃんに手紙を読んでいいかと尋ねたヤンヤンは、祖母の遺影に向かって手紙を読む。これがよかった。
言葉にするとありきたりの感想になってしまうが、少年の無垢が感じられた。
この手紙だけで☆が増えた。
映画は約3時間と長く、全体の雰囲気も重い。
登場人物はみな、どこか疲れている。それでも手探りするように生きている。
心躍るような事件は何も起きないのだが、それでも生きている一家の人々を描いていて、見応えのある作品だった。