監督:トニー・ブイ
出演:グエン・ゴック・ヒエップ、 ドン・ズオン、 ハーベイ・カイテル
ベトナムを舞台にした群像劇。 ★★★
現代のベトナム、ホーチミンを舞台に4つの物語りが並行して描かれる。
田舎からでてきて蓮摘みの仕事に就いた少女と古い屋敷に隠遁している主人の交流。
娼婦に恋をしたシクロ(自転車を改造した人力タクシー)の運転手の無償の愛。
物売りをしながら懸命に生きているストリートキッズ。
そして、戦争中にベトナム女性との間にもうけた娘を探す元米兵。
物語は淡々と描かれ、どちらかと言えば、地味な映画である。
登場人物たちはみんな(元米兵を除いては)貧しく、少し不幸である。
しかし、どの人も落ち込んではおらず、自分が置かれた環境を受け容れて自然体で頑張っている。
誰にも邪心がないので、観ていて清々しくすらなってくる。
白蓮栽培の主は、実はハンセン病に冒されて隠遁していたのだが、少女との交流によってふたたび詩を書くようになる。
娼婦は、自分を純粋に慕ってくれるシクロの運転手に、あんたといると自分が惨めに思えてくる、と言って遭うことを拒否しようとする。
それでもなお尽くしてくれる彼に、彼女も惹かれていく。
画面が美しい。
ごみごみとした都会の裏通りなども舞台になるのだが、それでも詩情がある。
監督はベトナム人だが、成人するまではアメリカで暮らし、長じてからはじめてベトナムを訪れたとのこと。
だから感覚としてはアメリカナイズされたものがあるのだろう。
最後、蓮栽培の主が亡くなり、少女は川に無数の白蓮を流す。
一方、シクロの運転手は、真っ白なアオザイを着た彼女を、はらはらと散る真っ赤なの花びらの中へ案内する(ポスターに使われている場面です)。
白い花と、紅い花が対照的な美しさだった。
原題は「三つの季節」。
ベトナムの実際の季節は雨季と乾季の二つ。三つ目の季節に込められたものを優しく感じとる映画でした。