2008年 アメリカ
監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド
偏屈老人の生き様。 ★★★★
ウォルト・コワルスキー(クリント・イーストウッド)は偏屈老人。
妻が亡くなり、一人暮らしとなった彼は子供たちとも上手くつきあえない。
周囲にはいつしかアジア人などの移民者が増え、一日中苦虫を噛んだような顔つきで過ごしている。
コワルスキーは典型的なアメリカ白人で軍人上がり。
朝鮮戦争の体験を重く引きずっていているようで、それがアジア民族蔑視にもなっているし、同時に朝鮮で少年を殺してしまったという罪悪感を抱えてもいる。
こういうアメリカ人の老人って結構いるのだろうなと思わせる。
退役軍人の会なんてのもあって、政治的な影響力も持っているようだし。
それはさておき。
他人と上手く折り合えない人は、どうしたって孤独になる。
その孤独に耐えられない人もいるし、意に介さずに孤独を貫く人もいる。
ウォルトは完全に後者。
亡くなった奥さんに頼まれていたからといって牧師がわざわざ訪ねてくれても、大きなお世話だ、とけんもほろろ。
そんな彼が大事にして誇りにもしているのが、往年の名車”グラン・トリノ”。
いかにもアメ車という感じの車。車好きにはたまらないのだろうな。
そしてそのグラン・トリノにまつわる騒動から、コワルスキーは隣に引っ越してきたモン族(中国南部に住む民族のようだ)の家族と関わりを持つようになる。
アジア人なんて、俺は嫌いなんだよ。
それなのに彼らは料理を作ってきてくれたり、家に招待してくれたり、底抜けに好意を寄せてくれるので、なんか戸惑ってしまうぜ。
不良少年グループに苛められるその家の少年タオ。
タオや、その姉と、いつとはなしにつきあい始めたコワルスキー。
う~ん、なんか、こういうのも悪くないんじゃないか・・・。
しかし、モン族一家を悲惨な事態が襲う。
まさか、そんなことが起きるなんて・・・。
コワルスキーはついに一人で不良少年たちのアジトに向かう。
もうこれ以上我慢は出来ない、ここで自分が立ち上がらなければ・・・。
そう、ここでは、あの高倉健がついに一人で敵ヤクザの事務所に殴り込みに行く場面を思い浮かべてしまう。
あの名台詞「死んでもらいます」も甦るというもの。
で、コワルスキーはどうしたか。
彼が誇りにもしていた名車グラン・トリノはどうなったか。
生きがいを失っていた偏屈老人に、モン族一家は大きなものを与えてくれたのだろう。
彼は人生の最後にそのお礼をしようとしたのだろう。
(もしかすると、朝鮮戦争で自分がおこなった行為の罪滅ぼしをもしようとしたのかもしれない)
さすがにイーストウッド。渋い。
終始苦虫を噛みつぶしたような渋面をしていながら、ほのぼのとした余韻を伝えてくれた。