2019年 フランス 119分
監督:リュック・ベッソン
出演:サッシャ・ルス、 ルーク・エバンス、 ヘレン・ミレン
美しき女性諜報員。 ★★★☆
リュック・ベッソン監督である。女性諜報員ものである。
とくれば、また「ニキータ」の焼き直しか、と思ってしまうところ。
実際、麻薬中毒でチンピラの情婦というすさんだ生活を送っていた女性がKGBで訓練を受けて一流の殺し屋になっていく、という筋書きは、おお「ニキータ」そのものではないか・・・。
しかし、それにもかかわらず、本作は面白く観ることが出来た。
モスクワの露店で売り子をしていたアナ(サッシャ・ルス)は、パリのモデル事務所にスカウトされる。
そして瞬く間にトップモデルとなった彼女は、下心丸出しの事務所の経営者に誘われて高級ホテルへ。
彼の裏の顔が武器商人だったという事を突き止めたとたんに、アナは間髪を入れず彼を撃ち殺す。
おお、きれいな薔薇には棘がある、美女が近寄ってきたときは私も気をつけなくては(笑)。
実は、アナの正体はKGBによって造り上げられた殺し屋だった。
彼女が勧誘されてモデルになるのも、敵がそうするようにKGBが仕向けた罠だったのだ。
なるほど。
アナに指令を出すKGBの幹部オルガ役にヘレン・ミレン。
こういった冷酷無比な女幹部というと、「レッド・スパロー」でジェニファー・ローレンスに過酷な指令を出していた教官シャーロット・ランプリングを思いうかべる。
ヘレン・ミレンもランプリングも、どちらも怖ろしい迫力だった。
そしてそのモデル事務所経営者の暗殺は、オルガによって課された最終テストだった。
この暗殺指令が実はテストで、わざと逃げ道を困難にしておく、などというところも「ニキータ」を踏襲していた。
アナが指導教官と恋仲になるところも、そして一般生活に溶けこんでいるときに恋人を作るところもニキータと同じだった。
でも、この映画、面白いぜ。
ヒロイン役のサッシャ・ルスはロシアのスーパー・モデルだったとのこと。
ベッソン監督はモデル出身が好きなようで、「アンジェラ」や「アデル」のヒロインもそうだった。
細身、長身、金髪といったところが好みなのだろうか。
スパイものなのでいろいろな行動には裏がある。策略と陰謀が交差する。
で、事がおきると、その数ヶ月前に遡っての計画を説明してくれる。
なるほど、そういうことになっていたのか。
始めに、アナに騙されたり欺かれる敵を見せておくわけだが、敵と一緒に観客も驚かされるわけだ。
で、ちゃんとそれに至る裏も説明してくれる。なるほど、そういうことだったのか。
これは物語の流れに変化も入れられるし、判りやすくて親切な作り方だった。
しかし、その策略や陰謀は次第に複雑に絡みあってくる。
KGBとCIA、この二大組織の騙し合いにアナも巻き込まれて行く。
おい、我々に協力しないと命はないぞ、あちらを裏切って二重スパイになれ。
おい、まさか我々を裏切ってはいないだろうな、あいつらは何をしようとしたのだ?
さあ、アナよ、どうする?
(以下、ネタバレ)
最終近く、KGBとCIAの両方の彼氏を公園に呼び出したアナ。
その背後には重火器で武装した双方の戦闘員が潜んでいる。ちょっとしたことで激しい銃撃戦が始まりかねない状況。
はて、アナはどうするつもりだ? あれ、両方の彼にキスをしているぞ。
美しい女性にはやはり棘があるのだよ。
男は美しい女性にはコロリと手懐けられてしまう愚かな生きものなのだよ。
リュック・ベッソン、久しぶりの傑作エンタメ映画に仕上がっていました。