1973年 スペイン 100分
監督:ビクトル・エリセ
出演:アナ・トレント、 フェルナンド・フェルナン・ゴメス
映像詩。 ★★★★☆
舞台は1940年で、スペイン内乱の直後に当たる。
少年のような雰囲気を持つ主人公の女の子、アナ(アナ・トレント、彼女が5歳だったので、混乱しないようにと役名を実名と同じにしたとのこと)がとにかく可愛い。
美しい風景、情景が、静かに、ゆっくりと展開される。
アナが両親、姉イザベラと一緒に暮らす村に「フランケンシュタイン」の巡回映画がやってくる。
映画に魅せられたアナに、姉は、モンスターは実は精霊で村はずれの家に隠れていると作り話をする。
その話を信じたアナは、その家に精霊を探しに行く。
映画のどの場面を静止させても、まるで絵画のように美しい。どの場面にも物語性が込められている。
驀進する汽車。
駅に停車した汽車の窓からこちらを見つめる旅人の視線。
広い畑の彼方に立つ廃屋。
その傍らの古い石造りの井戸。
ベッドを跳びはねて遊ぶイザベルとアナ。
焚き火を飛び越えて遊ぶイザベラ、それをぽつんと見ているアナ。
父親が飼っている蜜蜂。その蜜蜂の巣のイメージの窓。
などなど。
なにか、いろいろと暗喩になっているという解釈もあるようだ。
たとえば、アナの家庭の人間関係が希薄な様子は、スペイン内戦によるスペインの分裂を象徴しているとか、映画の終盤で母の気持ちが和らいだように描かれているのは、スペインの将来に対する希望を暗示しているとか。
しかし、そんな理屈をつけた見方をする必要はまったくないほどに、映画は美しい。
物語の背景にはスペインの不安定な社会情勢がある。
世間から隔絶したようにミツバチについての論文を書いている父親や、誰にとも判らないような手紙を書き続けている母親。
そんな中でアナの心が成長していく物語だ。
ある事件が起きてショックを受けたアナは言葉を失ってしまう。
しかし最後、夜に向かって窓を開いたアナは、「私はアナよ」と精霊に呼びかけるのだ。
映画のタイトルは知っていたのですが、こんなに美しい作品とは思っていませんでした。
素晴らしい作品でした。