2007年 香港 109分
監督:イートン・シン
出演:ダニエル・ル-、 アンディ・ラウ、 チャン・ジンチュー
麻薬潜入捜査員。 ★★★
ヘロインを売りさばく組織の配車係ニック(ダニエル・ウー)は、実は捜査潜入員。
彼は、永年の潜入のおかげで組織の親であるクァン(アンディ・ラウ)の信頼を得てきている。
組織の跡継ぎに、とまで思われてきている。
麻薬中毒がいかに人間性を損ねるものなのか、この映画はリアルに描いている。
ニックのアパートの隣には、麻薬中毒の女フェイ(チャン・ジンチュー)が幼い娘と住んでいるのだが、娘に満足な食事をさせることもできない荒れ果てた生活。
生きている意味がどこにあるのだ?とさえ、思えてくる。
肉体も荒廃しているが、それ以上にもう精神が荒廃しきっているのだ。
ニックは見かねて母娘に食料を届けてやったり、食事をおごったりする。
このフェイの夫がまた酷い人物。フェイ以上の麻薬中毒でDV男。
せっかく立ち直ろうとしたフェイをまた麻薬中毒の世界に引きずり込んだりする。
こんな野郎は死刑だっ!と叫びたくなるようなゲス男である(汗)。
そんな麻薬を供給する側の組織にニックは身を置いているわけだ。
ボスのクヮンは一見は紳士風(なんといってもアンディ・ラウだからね)。
しかし、麻薬を売って大金を得ていることになんの良心の呵責も感じてはいない。
麻薬問題の大きな根っこはこういうところにもあるのだろうな。
ニックは、クヮンが自分に絶対的な信頼を置いてくれていることをよく知っている。
そうなるように頑張ってきた潜入捜査だったわけだし、それでこそ成果も上げられるわけだ。
しかし、クヮンを裏切ることに一抹の心の痛みも覚える。
最後、ニックの素性を知ったクァンが、何故?と問う。渋い。
ハリウッド映画でやはり潜入捜査員を扱った「フェイク」という映画があった。
潜入捜査員役はジョニー・ディップ。そうとは知らずに彼を可愛がっていく末端組織のボスのアル・パチーノ。
これは二人の捻れた友情のようなものがよく出ている映画だった。
麻薬潜入捜査の映画だが、その一方で麻薬中毒の悲惨な有り様を主人公の周りの人間で描いているところが、見応えのあるものにしていた。
映画の最後、人はなぜ麻薬に手を出してしまうのだろう?と自問する主人公。
そんな主人公の虚無感を、あのフェイの幼い娘が救ってくれるところは、好かったな。